刑事裁判における「関連性」とは何か?被告人の供述調書の「必要性審査」について©2026川口崇


「この子(証拠)、関連性あります?」
©1984 Studio Ghibli・H

1.裁判官は「関連性」よりも「必要性」が好き


実務家(裁判官)は、「関連性」概念を狭く解釈しています。
弁護人は、もっと「関連性(はない!という主張)」を活用していくべきだと考えました。

【関連性の現れた条文】

刑事訴訟規則189条1項 

「証拠調の請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して、これをしなければならない。」

【必要性の現れた条文】

刑事訴訟規則189条の2

「証拠調べの請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して、これをしなければならない。」

刑事訴訟規則199条1項

「証拠調については、まず、検察官が取調を請求した証拠で事件の審判に必要と認めるすべてのものを取り調べ、これが終つた後、被告人又は弁護人が取調を請求した証拠で事件の審判に必要と認めるものを取り調べるものとする。但し、相当と認めるときは、随時必要とする証拠を取り調べることができる。」



「裁判員裁判における証拠の関連性、必要性判断の在り方」
裁判員裁判における証拠の関連性,必要性判断の在り方
島田一裁判官(大阪地方裁判所判事※当時)
蛯原意裁判官(大阪地方裁判所判事※当時)

ウ ところで、自然的関連性、法律的関連性、いわゆる証拠禁止は、実際の判断における相互の限界は必ずしも明確ではない(注5)。さらに証拠調べの必要性を判断するに当たっても、証拠の関連性の程度が問題となることは多く、結論として証拠採用しないとしても、その理由を、関連性がないとするか、必要性がないとするかは、実際には相当に微妙な問題でありうる。率直にいえば、関連性がないものと取り扱われるべき場合はある程度、限定又は定型化されており、それ以外の場合について、証拠の証明力の有無やその程度が問題となる場合を含め、幅広く証拠調べの必要性の問題として取り扱っているのが実務の運用ではないかとも感じられる(注6)。

(注5)平野龍一『刑事訴訟法』192頁,193頁(有斐閣、昭和33)は、これらが排他的なものではないとした上で、個々の規定を解釈するにあたって留意すべき三つの異なった観点であると指摘する。
なお、笹倉宏紀『証拠の関連性』法教No.364(2011)28頁は、ウィグモアが関連性と悪性格の立証の禁止や伝聞法則といった証拠法則との混同を戒めていたことからすれば、平野の提唱による法律的関連性の観念は、母法の概念の大胆な換骨奪胎であると指摘した上、特定の証拠法則を自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止のいずれかに分類することの困難性を強調する。
(注6)安廣文夫「証拠裁判主義」『大コンメンタール刑事訴訟法(5)Ⅰ』(青林書院、平11、122頁ないし138頁)127頁・128頁は証拠の自然的関連性よりも、より厳しい基準で訴訟経済に反する証拠を排斥するための「証拠調べの必要性」という概念の方が、はるかに重要な基準を果たしているといってよいと思われると指摘する。
裁判官が率直に言って(ぶっちゃけて)くれたことに好感が持てます。

・「関連性なし」or「必要性なし」で却下は「実際には相当に微妙な問題である。」
・「関連性なし」は「ある程度、限定又は定型化されて」いる(⇨「関連性パターン」が存在する)。
・「必要性なし」は「(↑限定又は定型化した関連性なし)以外の場合について」、幅広く取り扱っている。

弁護人の証拠意見と裁判官の決定理由©️2026川口崇
弁護人が「関連性なし」の不同意意見を述べても
裁判所は「関連性なし」意見には拘束されない。
結果、使い勝手の良い「必要性なし」で却下する。

関連性と必要性の図解©️2026川口崇
■検察官請求証拠を例に図解します。

・検察官は、「関連性あり」「必要性あり」の
証拠と考えて請求する、という建前です。
つまり、②関連性&必要性アリにあたります。
(なお、証拠意見のゲーム理論で述べるように、
実は、検察官は「ワンチャン請求」をしています。
つまり、③や④⑤が混入していることがあります。)

・弁護人は、不同意意見を述べる際に、通例、
「関連性なし」や「必要性あり」と付言します。
ここでの付言の意味は、以下でしょう。
「不同意。関連性なし」は、にあたります。
「不同意。関連性・必要性なし」(両方記載)は、にあたります。
「不同意。必要性なし」(のみ記載)は、
関連性は争わない意味の「」に思えるものの、
関連性を書かないだけの「」にも見えます。

・裁判官が、証拠請求を却下するに際して、
理由として「関連性なし」を述べる場合にはです。
(ただし、「関連性なし」は限定又は定型化されています。)

・裁判官が、証拠請求を却下するに際して、
理由として「必要性なし」を述べる場合に、
①関連性はある③で必要性はない のか?
④関連性もない⑤で必要性もない のか?
当事者(弁護人・検察官)からは、判断できません。

本来の判断論理から考えると、
「関連性」の有無(or)は、
「必要性」の先決問題であるように思えます。

「④関連性がないけれど、⑥必要性がある」という
証拠は(理屈上は存在するものの)証拠採用できないはずです。
④関連性がなければ、本来、
⑥必要性を検討するまでもなく、却下です。

しかし、当事者は、裁判官の「必要性なし」が
関連性の有無(①③or④⑤)の判断を含むのか断定できません。

おそらく、裁判官は、先決問題として
「①関連性あり」の判断をするわけではなく、
関連性の有無判断(or)を保留して、
「必要性なし」(or)の判断をしています。
※「関連性はあるが、必要性がありません」と
理由を述べてくれれば、①③だと確定できますが、
裁判官は、関連性の有無には触れてくれません。

裁判官がいささか不誠実にも感じるものの、
不同意の当事者(上記では弁護人)にとっては、
「採用されなかった」という結果だけで
ひとまずは十分に目的を達成しているから、
先決問題であろうが関連性の有無orはともかく、
orどちらかの「必要性なし」で理由は良いのでしょう。

2.「必要性」審査にはルールがない無法状態

問題は、裁判所の「必要性」審査のルールが法定されず、
いわば、各裁判官の「直感任せ」で運用されていることです。

「証拠の関連性」と「証拠調べの必要性」(成瀬剛教授

(163-164頁より引用。)
さらに、平成25年に公刊された司法研究は、証拠の積極的な価値の高低に着目した「証拠調べの必要性(狭義)」と、判断者の混乱や誤解を防ぐという観点から証拠調べに伴う弊害に着目した「証拠調べの相当性」を比較衡量して、証拠の採否(証拠調べの必要性(広義))を判断するという枠組みを提唱しました。

※筆者コメント
成瀬教授の司法研修所論文では、
<図1:証拠調べの必要性の判断枠組み>が図示されています。
(元ネタは、「科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方」(2013年法曹会)です。)

「(広義の)証拠調べの必要性」は、①と②で判断する。
①「(狭義の)証拠調べの必要性」:証拠の積極的な価値の高低に着目
②「証拠調べの相当性」:判断者の混乱や誤解を防ぐという観点から証拠調べに伴う弊害に着目

(165頁より引用)
【中略】
3 問題点と解決の方向性
しかし、「証拠調べの必要性」は、裁判所の裁量判断であるがゆえに、両当事者(検察官と弁護人)との関係で証拠採否の判断が不透明にならざるを得ないという難点があります。


(187-188頁より引用)

<「証拠調べの相当性」という概念の功罪>
◯研究員I
ご講演でも指摘されていたとおり、科学的証拠の司法研究では、証拠調べに伴う種々の弊害を「証拠調べの相当性」という言葉で整理しているのですが、それを「証拠調べの必要性(広義)」の下位に位置付けて、証拠調べに伴う弊害を「証拠調べの必要性」の概念に押し込んでいることについて、先生はどのように捉えていらっしゃいますか。
◯講師(成瀬教授)
「証拠調べの相当性」という言葉は、どんな弊害でも考慮できてしまうマジックワードであって、それを「証拠調べの必要性(広義)の下位に位置付けることによって、「証拠調べの必要性」があらゆる証拠に用いることのできる使い勝手の良い概念になったという面はあろうかと思います。
実際、この概念は現在の刑事裁判実務で広く用いられているわけでして、科学的証拠の司法研究は上手い言葉選びをしたのだと思います。
ただ、私は「証拠調べの相当性」というマジックワードで誤魔化して、そこに種々の弊害を盛り込むことには否定的な立場を取っています。

※筆者コメント
成瀬教授は、必要性審査について
「②証拠調べの相当性」概念で誤魔化すことに否定的な立場です。
もっと、「関連性」を活用していくべきだ、というご趣旨でしょう。

裁判官が「直感任せ」になる一因は、
(多くの)証拠採否決定の判断時点で、
裁判官は、証拠書類(書証)の内容を読まずに
証拠等関係カードの情報(標目や立証趣旨)のみを見て、
他の証拠の採用状況や、被告人質問、各証言に鑑みて
「必要性があるかどうか」を判断することにあります。

そして、必要性審査には幅広い裁量があるため、
(採否に)異議⇨(必要性)却下した判断について
上訴審で裁量の違法性が問われることが(ほぼ)ない。
必要性は、裁判官にとって使い勝手の良い概念です。

「証拠の関連性」と「証拠調べの必要性」(成瀬剛教授

(190-191頁より引用。)
<証拠採否決定と控訴審>
〇研究員L
ご講演の中で、「証拠調べの必要性」は判断過程がブラックボックスになるので、「証拠の関連性」に置き換えられるものはなるべく置き換えていくべきではないか、という提言がありました。頭の整理としては、先生が「証拠の関連性」でおっしゃっている枠組みを使いながら証拠整理を進めることでうまくいく気がしますが、自分が裁判員裁判において証拠調べ請求を却下する際には、おそらく、証拠等関係カードにおいて「関連性なし」を理由として記載することはなく、仮にそれを記載するとしても、「必要性なし」も併記すると思います
なぜなら、「証拠の関連性」に関する判断を誤って公判前整理手続における証拠調べ請求却下決定の不適法という手続的事情によって、高裁が第一審判決を破棄し、事件を差し戻したとしたら、訴訟経済に反しますし、何よりも裁判員の方に申し訳が立たないと思うからです。裁判員の方と一緒に一生懸命評議して、有罪・無罪や量刑について納得のいく結論が出て気持ちよく終わったのに、公判前整理手続における裁判官の証拠採否判断が不味かったから、あの判決はなしになりました、別の裁判員たちが前に行った裁判の証人尋問ビデオを見て改めて判断することになります、というのでは、社会に対してあまりに迷惑ではないでしょうか。
〇講師(成瀬教授)
問題意識はよく分かるのですが、一個の証拠採否判断の誤りだけで、判決影響性(刑訴法379条)まで認定されるでしょうか。
〇研究員L
判決影響性まで認められることはあまりないと思うのですが、第一審の裁判官としては、第一審判決が破棄されるリスクを最小化したいというのが正直なところです。
〇講師(成瀬教授)
ただいまの御意見は、多くの第一審の裁判官がお考えになっているだろうと思います。本音をお聞かせいただき、ありがとうございます。
ただ、研究者は、短期的なことばかりでなく中長期的なことも考えるので、証拠採用基準を明確化し、法曹三者が議論しやすい環境を整えることで、今後の刑事裁判実務の安定を図るという観点からは、やはり多少リスクを冒してでも、第一審の裁判官は「証拠の関連性」に基づく証拠採否判断を行っていくべきであると考えています。そうしなければ、証拠法のルールはいつまでも経っても形成されません。(ママ)

⇨裁判官は、関連性判断を誤るリスク(控訴審で差戻)を恐れて、
証拠等関連カードには、「関連性なし」を理由に書かないし、
書く場合にも「関連性なし。必要性なし。」と併記します。

この裁判官(研究員)の発言は、
裁判官が、
(1)「証拠を却下する心証」⇨(2)「却下する理由(≒ほぼ必要性なし)」
の順番で考えている。ということを表しています。

筆者は、(1)心証先行を「直感任せ」だと指摘しています。
※本当は、「関連性なし」の主張の有無に関わらず、
頭の中で「関連性」の有無を考えて、審査すべきです。
(これは、「必要性」の有無についても、同じです。)


裁量だから、裁判官が直感的に、
「なんか、必要そう。」
「なんか、不要そう。」
と考えて判断したとしても、違法ではない。

「関連性ナシ」が裁判官にあまり使われておらず、
「必要性ナシ」が多用される原因の一つだと考えます。

「証拠の関連性」と「証拠調べの必要性」(成瀬剛教授

(193頁より引用。)
(成瀬教授)
裁判官が、「証拠調べの必要性」を理由として証拠調べ請求を却下する際も、どういう意味で「証拠調べの必要性(狭義)」がないかを、当該事案と証拠に即して、具体的に考えておられると思うのです。それにもかかわらず、当事者になかなか理解してもらえないのは、「当該証拠はこの部分の推認過程がつながっていない」という裁判官の判断が、当事者側にきちんと言葉で伝わっていないからではないでしょうか。
ですので、まず、証拠調べ請求をした当事者に想定している推認過程を説明してもらって、それに対して、反対当事者や裁判官が、経験則に照らしたらそのような推認は成り立たないのではないか、などと意見を述べて、議論をすることには大きな意味があると思います。最終的には、当該証拠を採用するという結論になったとしても、証拠から要証事実に至る推認過程が明確になることで、公判審理における当事者の攻防が充実し、より良い判決にもつながると考えています。

※成瀬教授は、(筆者よりも)裁判官に優しいです。

筆者は、裁判官は経験則から直感的に必要性を判断していると考えます。
採用前に読めない証拠を「証拠等関係カード」の記載だけを見て、
わざわざ推認過程を想像して、必要性を判断しているでしょうか。
推認過程を説明「しない」のではなく、
情報不足から「できない」のだと考えています。

成瀬教授の目指す方向性に、弁護人の立場から賛成します。

成瀬教授ご指摘の推認過程を想像するプロセスを
裁判官がしっかりと踏めるのであれば、
たとえ、当事者が「同意」の証拠意見を出したとしても、
裁判官が推認過程を想像して、
関連性・必要性の審査をするはずです。

※筆者は、事前の関連性・必要性の審査をするべきと考えます。
(関連記事:裁判官主導で被告人質問先行型を実施する方法の考察【裁判官向け】©2023川口崇弁護士は、被告人の供述調書に弁護人が「同意」する場合にも、裁判官が主導して、必要性審査をするべきだ、という論評です。)

しかし、ほとんどの裁判官は、「同意」⇨「即採用」です。
※裁判官の名誉のために、極めて少数ではあるものの、
「ワンチャン請求」を採用前に吟味する裁判官が存在することを指摘します。

「同意」⇨「即採用」に、推認過程は見られません。

■被告人質問先行後の「必要性」審査の例

筆者は、被告人質問先行の記事において、以下の指摘をしました。
法322条により、被告人の供述調書(乙号証)を
採用するかどうかの「必要性審査」において、
裁判官は、検察官に対して、
請求を撤回するか維持するかを釈明をします。

しかし、検察官が請求を維持する場合でも、
裁判官は、「被告人質問(検察官の反対質問)で何が不足するのか」という
具体的な質問をしていない(必要性の釈明をしていない)という指摘です。

(関連記事より引用)

【必要性の審査について】

裁判官は、AQ後の(1)必要性の審査にあたって、

検察官の「論告のため乙号証もほしい」という需要に応じるべきではなく、

「法廷供述が心証形成に十分か」という観点で審査しなければなりません。


検察官がAQ後に法322条請求をする場合には、

裁判官は「検察官は法廷供述以上に乙号証で何を立証する予定ですか」と

立証計画を釈明をしたうえで、弁護人の意見を聴取するべきです。

(検察官の抽象的な需要だけでは、弁護人も抽象的に「不必要」としか答えられません。)

弁護人は、裁判官が「不必要」却下してくれれば全く問題ないのですが、

P法322条請求→J採用する場面では、

裁判官の検察官に対する釈明事項が整理できていない印象です。


このような裁判官と検察官のやり取りであれば、

弁護人も具体的な意見と異議を出せると考えられます。

J「では、甲号証は採用。乙号証のうち、住民票・前科調書は採用します。

乙号証のうち、その余の供述調書は採用留保します。検察官、読み上げてください。」(規則190条1項

B「主質問(罪体・犯情を聞いた。動機は金欠。 )」

P「反対質問(罪体・犯情を聞いたが、金欠以外の動機を聞き出せなかった。論告は、供述調書をソースとして動機は大金欲しさで身勝手との記載がある。)」

J「補充質問」

被告人質問先行

P「乙号証(乙2・乙3・乙4)を法322条請求。」(乙号証:動機は大金欲しさ。) 

J「検察官は法廷供述以上に、乙号証で何を立証する予定ですか」(必要性の釈明)

P「被告人は、動機を金欠だと法廷で供述しましたが、

被告人の供述調書では、動機を大金欲しさであると供述しています。 

不利益な事実の承認を立証したく、法322条請求します。」

J「乙2・乙3・乙4すべて必要ですか?必要な範囲を特定できますか。」 

P「乙4(APS)の3項と4項を請求します。その余は撤回します。」

J「弁護人、ご意見は」  

B「必要性・関連性なし。相当性なし。被告人は、先程の被告人質問において、 動機を金欠であると具体的に供述しております。検察官には、反対質問の機会が与えられて、十分に供述しましたから、供述調書を請求する必要性・関連性がありません。 また、検察官が、作文である供述調書をもって法廷供述を補充する態度には、相当性が認められません。」

J:乙号証の法322条請求の必要性なしで却下→終了(検察官が異議) 

J:乙号証の法322条請求の必要性ありの心証→続く

J「弁護人、任意性・信用性を争いますか。」

B「任意性は争いません。信用性は争います。」

(※任意性フォーミュラを使えば、ここで不任意の効果が発動します。)

J「乙4(APS)の一部請求部分(3項と4項)を採用します。」

B「只今の裁判所の証拠採用決定について異議がございます。+■法令違反の中身の主張」

(法309条「証拠調に関し異議」、規則205条但書:「法令の違反」、規則205条の2:「直ちに」)

J「異議を棄却します。」(規則205条の5)

弁護人個人の感想として…

裁判官が現場の若手検察官に対して、手加減を見せている場面だと感じます。

被告人質問先行で論告が落ちたら、あとで上司に怒られちゃうよね…

かわいそうだからあまり責めないで、法322条で採用してあげよう。」と。

美談かもしれないけれど、作文を採用される被告人の不利益を考えてほしいです。


村井宏彰弁護士は、季刊刑事弁護95号(2018年7月)掲載の論文で、

法322条請求時において、

1.乙号証の「どの部分が不利益陳述にあたるのか」特定しない検察官

2.乙号証の「必要性について言及しない」検察官 

の問題について指摘されています。

刑訴法322条1項で請求するのならば、

どの部分が不利益陳述にあたるのか等を特定しなければならない

主質問で顕出されたこととは重複する。

そもそも、刑訴法322条1項の請求は、証拠能力の問題である。

主質問を経てもなお被告人供述調書の取調べが必要な理由が必要である。

そうであるのに、単に「刑訴法322条1項で請求する」というだけで、

必要性について言及しない検察官が圧倒的に多い

季刊刑事弁護95号(現代人文社@2018年7月・36頁より引用)

非裁判員裁判における審理の在り方―被告人質問をもっと「先行」しよう!


【弁護人への釈明タイミングまとめ】

弁護人から証拠意見を聞いた直後のタイミングで任意性を釈明する必然性はなく、

AQの後の法322の請求のタイミングで釈明すれば、次回公判の予定は立てられます。

この点は、最高裁判所や司法研修所で研修内容の見直しが必要と考えます。


(関連記事より引用・以上)

冒頭に述べたように、

「必要性なし」は、裁判所の広範な裁量判断です。一方で、

「関連性なし」は、裁判所の裁量はない(狭い)はずです。

そうであれば、

弁護人は、「(乙号証は)不同意。」としたうえで、

なぜ「被告人質問先行のため関連性なし。」と書かないのか。

「関連性」とはなにか?について興味が湧きました。

(これが、筆者が「関連性」調査をはじめたキッカケです。)


ただし、以下の【学会の話】を整理すれば、

「関連性ナシ」を弁護人が主張しても、

「必要性ナシ」として裁判官の頭の中で変換され、

結局、裁量判断がされてしまうように思います。


※実際のところ、弁護人からみれば、

検察官の被告人供述調書の請求を

裁判官が却下してくれれば、十分です。

理由が必要性ナシでも関連性ナシでも。


■「任意性」と「関連性」の却下逃げの類似

任意性と必要性の図解©️2026川口崇
「関連性」と「任意性」はパラレルに考えられそうです。
(厳密には、両者は異なる概念ですが、
裁判官の「却下逃げ」は類似した構造です。)

ところで、2024年の関連記事には、

供述調書の任意性を争う書式を掲載します。

(これを、「任意性フォーミュラ」と呼称します。)

被告人質問先行の趣旨で乙号証を「不同意」と証拠意見する場合にも「任意性を争う」べきだという提言~任意性フォーミュラ~【弁護人向け】©2024川口崇弁護士


筆者が、弁護人の立場で言えば、

「B不同意⇨J不採用」を貫徹するためには、

「必要性なし」と主張するに留まらず、

「任意性を争う」主張をするべきだと考えます。


被告人の供述調書(乙号証)に関して、

弁護人の「関連性なし」の主張はあまり見られません。

「関連性」と「任意性」をパラレルに考えれば、

上記の図解のように説明できると考えられます。


実務では、

弁護人が「任意性なし」と意見を述べても、

裁判官は「必要性があるか」の審査をしています。

「任意性」審査を避けて「必要性」審査で済ます姿勢と

「関連性」審査を避けて「必要性」審査で済ます姿勢は、

類似しているため、比較のため図解しました。

「任意性」(法322条1項)は、相当性の問題と整理されます。

一橋大学村岡啓一教授)「被告人供述調書の取扱い : 現状を打開するために」参照。

(筆者注:司法研修所作成の)図1のチャートによれば、

法三二六条の同意があれば、それだけで法三二六条により証拠能力が賦与されるかのように書かれているが、

刑事訴訟法上は、相当性判断の枠組みのなかで任意性判断がなされることになっているのである。

別言すれば、〈任意性立証のステージ〉は

同意・不同意にかかわらず、いずれの場合であっても必ず存在するのであり、

任意性を争う意思を明らかにした場合にのみ立証テーマとなるというわけではないのである。

本来、被告人の供述調書も

関連性審査がされるべきです。

しかし、「"被告人"の供述調書だから

"被告人"の事件との関性があるだろう」

という裁判官・当事者の先入観から、

「関連性あり」の前提で実務が形成されてきたのでしょう。

本来の刑事訴訟法の「関連性」の定義からすれば、

少なくとも、被告人質問を先行したうえで、

法廷供述による心証形成に加えて、

被告人の供述調書を採用する「関連性」が、

AQ後に残存しているのかを具体的に検討するべきです。

しかし、調書裁判・精密司法から見過ごされてきました。

AQ前に、被告人の供述調書を採用する審理が続けられてきました。


「証拠の関連性」と「証拠調べの必要性」(成瀬剛教授

(190-191頁より引用。)
<証拠採否決定と控訴審>
〇研究員L
ご講演の中で、「証拠調べの必要性」は判断過程がブラックボックスになるので、「証拠の関連性」に置き換えられるものはなるべく置き換えていくべきではないか、という提言がありました。頭の整理としては、先生が「証拠の関連性」でおっしゃっている枠組みを使いながら証拠整理を進めることでうまくいく気がしますが、自分が裁判員裁判において証拠調べ請求を却下する際には、おそらく、証拠等関係カードにおいて「関連性なし」を理由として記載することはなく、仮にそれを記載するとしても、「必要性なし」も併記すると思います
なぜなら、「証拠の関連性」に関する判断を誤って公判前整理手続における証拠調べ請求却下決定の不適法という手続的事情によって、高裁が第一審判決を破棄し、事件を差し戻したとしたら、訴訟経済に反しますし、何よりも裁判員の方に申し訳が立たないと思うからです。裁判員の方と一緒に一生懸命評議して、有罪・無罪や量刑について納得のいく結論が出て気持ちよく終わったのに、公判前整理手続における裁判官の証拠採否判断が不味かったから、あの判決はなしになりました、別の裁判員たちが前に行った裁判の証人尋問ビデオを見て改めて判断することになります、というのでは、社会に対してあまりに迷惑ではないでしょうか。
〇講師(成瀬教授)
問題意識はよく分かるのですが、一個の証拠採否判断の誤りだけで、判決影響性(刑訴法379条)まで認定されるでしょうか。
〇研究員L
判決影響性まで認められることはあまりないと思うのですが、第一審の裁判官としては、第一審判決が破棄されるリスクを最小化したいというのが正直なところです。
〇講師(成瀬教授)
ただいまの御意見は、多くの第一審の裁判官がお考えになっているだろうと思います。本音をお聞かせいただき、ありがとうございます。
ただ、研究者は、短期的なことばかりでなく中長期的なことも考えるので、証拠採用基準を明確化し、法曹三者が議論しやすい環境を整えることで、今後の刑事裁判実務の安定を図るという観点からは、やはり多少リスクを冒してでも、第一審の裁判官は「証拠の関連性」に基づく証拠採否判断を行っていくべきであると考えています。そうしなければ、証拠法のルールはいつまでも経っても形成されません。(ママ)

⇨裁判官は、関連性判断を誤るリスク(控訴審で差戻)を恐れて、
証拠等関連カードには、「関連性なし」を理由に書かないし、
書く場合にも「関連性なし。必要性なし。」と併記します。

(上述より再度引用)
関連性を任意性に言い換えても当てはまるように思います。

⇨裁判官は、任意性判断を誤るリスク(控訴審で差戻)を恐れて、
証拠等関連カードには、「任意性なし」を理由に書かないし、
書く場合にも「任意性なし。必要性なし。」と併記します。

(関連して法務省の見解について)

法務省は、「供述の任意性が争われた事件数(※ 1)」について、以下の説明をします。
※1 「供述の任意性が争われた事件」とは、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、被告人の捜査段階における供述の任意性を争う旨の主張がなされた事件検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除く。)で、令和4年10月24日までに確定したものをいう。

この資料では、任意性を争われた事件が非常に少なく記載されます。
(全国で年間50件に満たない数しか任意性が争われた事件がない。)
しかし、弁護人が任意性を争っても、
・検察官がAQ後に請求撤回した場合は除く
・裁判官が「必要性なし」却下した場合は除く
と注釈で定義づけられているため、
(弁護人が)「供述の任意性が争われた事件数」は不正確であり、
(裁判官が)「任意性審査をしなかった事件」が正確でしょう。

法務省の役人(おそらく裁判官・検察官)さえ、
裁判官が任意性審査を避けている実務上の問題について、
正確に理解していないため、不正確な資料を作成しています。

※筆者だけでも、年間二桁以上の
刑事事件(裁判員・非裁判員)において、
任意性フォーミュラの証拠意見書を提出しています。

実態としては、弁護人が任意性を争っても、
検察官は「請求撤回」する場合が多く、
裁判官に「必要性なし」変換されてしまい、
任意性としてノーカウントになってしまっています。


3.【刑事訴訟法学会の話】

2018年、「証拠の関連性」の機能不全 を
笹倉宏紀教授が論文で鋭く指摘しました。

元受験生(現在の実務家)のほとんどは、
「関連性」を無意味な議論(≒受験用論点)
として整理していると思われます。
※受験生のバイブルである「趣旨規範ハンドブック(刑事系)」等を参照。
(趣旨規範HBに限らず、どの予備校本も関連性の本質を説明できません。)


(平野博士の)「証拠の関連性」に関する博士の説明も実は誤解されている。(略)
「証拠の関連性」に関する誤解は、一方では無意味な議論-特定の証拠法則を自然的関連性、法律的関連性(と証拠禁止)のいずれに分類するかという区別に拘泥する傾向-を誘発して法学教育の現場に悪影響を及ぼし、他方で、それが本来担っていたはずの、事実(に関する主張)と証拠の選別の機能を実務上果たし得ない事態を生じさせて今日に至っている。
 後者の事実と証拠の選別に関わる「証拠の関連性」の機能不全の要因の一半は、「精密司法」の伝統に求められるのかもしれない。「事件の全容」を解明することに関係者すべてが「熱意」を傾け、当事者が大量の証拠を提出し、裁判所もできる限り多くの証拠を検討した上で結論を得たいと考える「精密司法」においては、事実に関する主張や証拠の選別を徹底することの必要性が感じられなかったのはごく自然である。だからこそ、訴訟の進展に応じてあらゆる事情を取り込むことができ、かつ裁判所の職権主義的な裁量判断を許す「証拠調べの必要性」という概念が愛用されてきたのであろう。しかし、裁判員裁判の導入に伴い、「当事者主義の実質化」が叫ばれ、他ならぬ平野博士が創案した「核心司法」という標語が法曹三者を指導する共通理念となった今、「事件の核心を突いた」審理を可能にする道具概念として「証拠の関連性」がその真骨頂を発揮する環境は整ったはずである。それにもかかわらず、それが依然として休眠したままであるのは、学説も実務も「証拠の関連性」概念の理解の基本において「つまずいて」しまっており、「証拠の関連性」がそのような機能を担いうるものであること自体を関係者の多くが知らないからであろう。
(3) その「つまずき」をより具体的に述べれば、次のとおりである。
法学部で刑訴法の基礎的知識を習得しているはずの法科大学院の学生との授業でのやり取りや、実務家との会話から推すに、「証拠の関連性」については、証拠とそれによって直接に証明しようとする事実の間の結びつきの問題であるという思い込みが蔓延しているように思われる。実際、「自然的関連性」が否定される場合としては、偽造ないし変造されたことが明らかな証拠、取り違えられたことが明らかな証拠、いわゆる科学的証拠や、噂、風説、想像、単なる主張·意見(起訴状もこれに含まれる)など、直接証明すべき事実との間の関連性を欠くものだけが挙げられることが多い。それが実務家の間で一般的であるのだとすれば、この概念が実務上これまでほとんど機能していないのはごく自然の成り行きである。
 ところが、母法では、この概念は、事実と証拠を整理するものとして現実に用いられている。関連性概念は、証拠により直接証明されるべき事実との関係ではなく、むしろ、その事実と最終的な要証事実との関係(つまり、間接事実ないし情況証拠と主要事実との関係)を問題とするもの、つまり、大量の間接事実(と思しきもの)が公判で漫然と主張、立証され、時間を浪費する事態を抑止し、主要事実の認定に役立つ蓋然性のある証拠だけを証拠調べの対象とすることを可能にするものとしてこそ機能している。その意義と機能は、ロースクールの証拠法の授業で徹底的に叩き込まれる。その「証拠の関連性」という道具をせっかく母法から継受したにもかかわらず、我々は、それを使いこなせていないのである。
@アメリカの裁判所では、証拠の「関連性」が審査されます。

@日本の裁判所では、証拠の「関連性」がほぼスルーされます。
関連性の代わりに証拠の「必要性」を裁判官の広い裁量で審査しています。

刑事裁判所の証拠採否裁量を規律する準則―「証拠の厳選」論に対する批判的考察―
(上智大学法科大学院・角田雄彦教授・弁護士)※母法とされるアメリカ合衆国の連邦証拠規則「関連性」(relevancyとmateriality)について、詳しい。

狭義の relevancy を有しているというためには,その証拠が要証事実を「証拠の優越」により証明できるまでの性質を要求されているわけではなく,単に「その証拠がないよりもあった方が事実の存在を より確からしくするか より不確かにする 性質を持っている」ことが要求されるだけである。


「基本刑事訴訟法(I・II)」のコラム。

基本刑事訴訟法 I」252-253頁より引用

●コラム● 自然的関連性・法律的関連性・証拠調べの必要性
 自然的関連性も法律的関連性も、基本的には要証事実に対する推認力の強弱を問うものであり、その観点は共通している。
法律的関連性は、事実誤認のおそれがある証拠を排斥する機能を有するものと説明されるが、事実誤認をもたらすということは推認力が弱い(証明力が乏しい)ことを意味するとも評価できる。そうだとすれば、自然的関連性にせよ法律的関連性にせよ、結局は証明力が乏しい証拠に証拠能力を認めないということであり、両者を区別する必要はないとの理解もある。そのような理解からは、自然的関連性も法律的関連性も「関連性」に一元化されることになる。実際、アメリカの連邦証拠規則は関連性(relevancy)という概念の中で推認力の低い証拠の証拠能力を否定する枠組みになっている。これに対して、実務では証拠調べの必要性という概念が用いられる場合が多い。主として、重複立証に当たるか否か、最良の証拠(ベスト・エビデンス→7講2(3))といえるか否かという観点から証拠を選別するときに用いられる。もっとも、裁判所が法律的関連性のような観点から証拠調べ請求を却下するときには、しばしば「証拠調べの必要性がない」と説明することもある。事実誤認をもたらすおそれのある証拠の採否を証拠調べの必要性の問題とすることの実質的な意味は、裁判所の証拠採否裁量の問題として扱うことにある。
 また、証拠によって証明されるべき事実が、仮に証明されたとしても、判決への影響力を有する程度の重要性(materiality)がない場合には、当事者が証拠調べ請求をしても、裁判所は証拠採用しない。例えば、強制性交等被告事件において、被告人の犯人性を立証する趣旨で、被告人のインターネット上におけるわいせつ画像の検索履歴を証拠調べ請求しても、裁判所は証拠採用しないであろう。そのような判断に関する説明として、(1)証明されるべき事実の重要性の有無を関連性の中に組み込んだ上で、関連性を欠くからだとする見解と、(2)証明されるべき事実の重要性の有無を証拠調べの必要性の問題として捉えた上で、証拠調べの必要性がないからだとする見解がある。公判前整理手続などの場面で証拠採否を検討する際の視点となる(→8講義1(3)シ)。
 このように、関連性に関わる概念には種々のものがあるため、学習の際には注意を要するところである。


基本刑事訴訟法 II」216頁より引用

●コラム● 法律的関連性と証拠調べの必要性
 前科証拠に関わる平成24年判決で、自然的関連性という言葉は用いられたが、判例において法律的関連性という言葉は未だ用いられたことはない。平成24年判決も、前科証拠について自然的関連性がありうることに言及し、事実誤認のおそれや争点の拡散のおそれを踏まえて証拠能力を判断すべきだとしつつ、「証拠の取調べ請求を全て却下した第1審裁判所の措置は正当」との言い方で締めくくった。証拠の関連性の有無と「証拠調べの必要性」「証拠調べの相当性」と呼ばれる裁判所の証拠採否裁量の関係は、必ずしも判例上は明確ではない。事実誤認のおそれや争点拡散のおそれといった諸点については、裁判所はしばしば証拠採用の際に、「証拠調べの必要性」を検討する枠組みの中で考慮してきた。
 司法研修所編『科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方』(法曹会、2013年)は、これらの概念の関係について、次のような整理を試みている。
第1に、自然的関連性は必要最小限の証明力を意味する。
第2に、これまで実務上「証拠調べの必要性」として裁判所が裁量的に判断してきた事項を2つに分別できるとする。
すなわち、証拠の積極的な価値の高さの有無や、事案や争点に関連しない無駄な審理を回避する視点(審理の合理化)から証拠の採否を判断する場合を、「証拠調べの必要性」の有無という形で表現する。科学的証拠に即していえば、科学的証拠から直接認定できる事実、その事実を含めて構成される間接事実の価値は、「証拠調べの必要性」の有無という形で吟味されることになる。他方で、証拠調べに伴う弊害、判断者に混乱や誤解を与えるおそれの有無は、「証拠調べの相当性」で吟味すべきだとする。科学的証拠に即していえば、科学的証拠から生じる混乱・誤導のおそれの有無が「相当性」で吟味されることになる。
 以上の理解によれば、実質的には、法律的関連性は、証拠調べの必要性の枠内で、「相当性」の有無という形で検討されることを意味する。しかし、そもそも自然的関連性と法律的関連性を分離させること自体にも異論がある上、法律的関連性を裁判所の証拠採否裁量の中で考慮する形にすることが適切なのか等の議論がある。




二 いわゆる「法律的関連性」の意義
 「法律的関連性」は講学上の用語であって、法律上の用語ではない。アメリカ証拠法においては、関連性を有していてもその証明力は高くなく、証拠調べによってもたらされる不当な予断等により事実認定を誤る危険性の方が証明力を相当上回る証拠を排除する、事実審裁判所の裁量的権限が肯定されている4)。連邦証拠規則403条に代表されるように、当該権限を明文化している法域も多い。アメリカにおいて、このバランシング・テスト(利益衡量審査)による証拠の許容性を、“legal relevancy”と呼んでいる法律文献も見られる(ただし一般的というわけではない)5)。利益衡量による許容性審査は事案毎にすべての証拠を対象に行うことができ、悪性格証拠の排除法則や伝聞法則の例外を満たす証拠であっても、利益衡量審査の対象になる6)。これに対し、日本の裁判実務においては、証拠調べに伴う弊害は証拠調べの必要性(ないし相当性)の枠組みの中で考慮すべきとの見解が有力化している7)。当該見解に従えば、日本では連邦証拠規則403条のような許容性審査の枠組みは余計であることになろう。
 しかしながら、アメリカ証拠法における利益衡量による証拠の許容性審査は、証拠調べの必要性判断とは「似て非なるもの」である。連邦判例によれば、前者は、証明力を最大に見積もり危険性を最小に見積もって行うべきであると理解されている8)。そのため、利益衡量審査による証拠排除は、排除すべき理由を明確に説明できる場合の例外的措置ということができる。これに対し、日本の裁判実務において証拠調べの必要性は、必要でない理由の具体的説明を要しない裁判所にとって使い勝手のよい枠組みとして用いられてきた。それゆえ、証拠調べの必要性の枠組みによる証拠の採否は、刑事訴訟法298条が保障する証拠調べ請求権の軽視につながりかねないという本質的問題を孕んでいる9)。日本の裁判実務における証拠調べの必要性の枠組みへの依存の前提には、証拠の許容性審査だけでは「証拠の厳選」(刑訴規則189条の2参照)はできないという理解があるように思う。しかし、陪審制をとるアメリカにおいて証拠調べの必要性という職権色の強い枠組みに頼らずとも、証拠の厳選はできているのであるから、この点はアメリカ証拠法の詳しい研究が必要だろう10)。検察官や弁護士からは、証拠調べ請求権の保障の観点から、刺激証拠の採否も利益衡量による証拠の許容性審査の枠組みの中で行うべきことを支持する見解が有力である11)。


関連性について、司法研修所論文が詳しい。
「証拠の関連性」と「証拠調べの必要性」(成瀬剛教授
※2024年8月発売の関連性の研究です。
図解入りで、高度な内容が解説されています。

「関連性」の裁判例。
最二小判平成24・9・7刑集66巻9号907頁
百選10版 62同種前科による事実認定●笹倉宏紀教授
百選11版 60同種前科による事実認定●細谷泰暢(東京地裁判事)

〆 横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇


著作権法32条1項に基づく引用

・本稿の引用論文は、著作権法32条1項の「批評、研究」の目的で引用しています。

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