2025年1月1日より横浜地方検察庁で「FAX」による謄写申請が可能に。メリットと改善経緯の解説©️2025川口崇弁護士


全国の検察庁はいまだに紙ベースの仕事をしています📄
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1.2025年より横浜地方検察庁で「FAX」による謄写申請が可能に

筆者は、2023年8月28日付けで以下の記事を公開しました。


本稿は、2023年のEXCEL(初版)公開後の後日談です。

筆者は、各検察庁に対する情報開示請求を行い、
横浜地方検察庁との交渉(閲覧謄写係と電話で衝突)を経て、
2024年6月頃、FAX謄写申請を認めるように書面での申入れを行いました。
横浜地方検察庁は、令和6年12月16日付けで「公判係属中の事件に係る証拠書類等の閲覧謄写申請について(通知)」(横地公判第18号)を神奈川県弁護士会に通知しました。
2025年1月1日からFAXによる謄写申請が認められることになりました。

先輩弁護士よりメールをいただきお褒めいただいたほか、
同期弁護士より事務員さんのご好評をいただいている、
という話を聞き及び、嬉しく感じております。
手前味噌ながら、主に神奈川県の弁護士の省エネ化につながりました。

[y-info:6090] 横浜地方検察庁「記録証拠品閲覧謄写申請書」改訂版 会員サイト掲載のお知らせ
2024年12月25日(水) 16:32

横浜地方検察庁から、2025年1月1日以降、公判係属中の事件に係る証拠書類等の
閲覧謄写申請について、来庁又は郵送による申請に加えて、ファクシミリによる申請を
受け付ける事になった旨の通知が参りました。
ファクシミリによる申請の場合には、申請書原本の提出は不要となります。

会員サイトに改訂された「記録証拠品閲覧謄写申請書」を掲載いたします。
掲載日は2025年1月1日を予定しており、下記URLからダウンロードできますの
で、ご活用ください。

よろしくお願いいたします。
              記
ホーム>書式>横浜地検>横浜地検書式
https://www.kanaben.or.jp/member/page.php?c=585
                    以上

2.従前、原本提出が必要だった(郵送or手渡し)

(前提)
謄写の具体的な手順は、概ね以下の通りです。
1.弁護人が「記録証拠品閲覧謄写申請書」(様式第1号)を記入して検察庁に提出。☆
2.担当検察官が許可をする。「申請書」に検察官印を押印。
3.弁護人または依頼を受けたコピー業者が、証拠書類をコピー。
(コピー業者は、司法協会や東京謄写センター、弁護士会職員、弁護士協同組合等。)

筆者は、EXCEL⇨PDF出力⇨印刷⇨持参していました。
(郵送も可だが、時間がかかる。そのため、検察庁に持参。)。

しかし、横浜地方検察庁には、書類受け取りの窓口がありません。
建物1階には、職員ではなく、警備員さんが座っているだけです。
弁護士や事務員に対して「入館手続きをして、
横浜地方検察庁本庁で3階まで上がって原本を渡しにきなさい」
という不合理で非効率な扱いがされていました。
※東京を除く全国の地方検察庁でも同様の取り扱いが多いはずです。
筆者は、夜間には仕方がなく「新聞受け」に申請書を投函することもあります。

(なぜ、原本で提出しなければいけないのか?)
(なぜ、FAXで提出してはいけないのか?)
記事を公開したあとで、筆者は気になりはじめました。

@弁護人⇨検察官への証拠開示について、
弁護人は「弁号証」をFAXで送っている(通信費弁護人持ち)。
弁号証の「閲覧申請書」「謄写申請書」なんぞ求めてはいない。
検察官や検察事務官に「法律事務所まで取りに来い」なんて言わない。

それなのに、
@検察官⇨弁護人への証拠開示について、
弁護人は、検察庁に対して、御上に「お願い」するが如く、
「申請書」を提出しなければ、コピーを許してくれない。
(申請書不要化が理想だけど)せめてFAXで良いのでは?と思いました。

※裁判官は、検察庁の閲覧謄写制度について、想像もできないでしょう。
検察官さえも、謄写制度をわかっていないはずです。
検察事務官の領域でしょう。
事件につき「1回」の請求証拠の申請書提出であれば、なんとか許せます。
しかし、検察官の追起訴があれば、追起訴回数分の申請書提出を求められます。
検察庁の都合で追起訴をするのに、弁護人がその度に申請書を提出する。
さすがに、理不尽です。
また、任意開示があれば、追加謄写のための申請書提出を求められます。
気の利いた検察事務官は「証拠の任意開示について」(一覧表)に加え、
A4数枚の任意開示された証拠を同時に郵送してくれることが多いです。
弁護人の申請書提出の二度手間を考えれば、同時郵送はすごく親切です。


3.FAX可能化により省エネ化を実現

今回の横浜地方検察庁の運用変更により、
弁護人は「申請書」と「委任状」をFAX提出することにより、
一度で、謄写手続きをすることができるようになりました。

◯弁護人のメリットはもちろん、
法律事務所の事務員さんにとっても、
謄写手続き業務の省エネ化のメリットがあります。
郵送手続きがカットされ、郵便費用も節約できます。
急ぎの謄写請求でもFAXさえ送付すれば足ります。

◯検察庁の検察事務官にとっても、
謄写申請書だけを提出に来られるより、
特定のFAX機に送付された方が効率が良さそうです。
第三者(弁護人や事務員さん)が執務室を訪れて、
書面確認をすると、仕事の中断になっていたでしょう。
残業代(税金)の節約になったかもしれません。

4.メリットと改善経緯を記した会員メール

(会員ML向けに送付したメールを編集した内容)
2024年12月29日

神奈川県弁護士会会員の皆様

お世話になります。68期の川口崇です。

y-info:6090のとおり、横浜地方検察庁でFAXによる申請が認められることとなりました。
「FAX可で、何のメリットがあるのか?」という説明をいたします。
(当会や委員会とは関係のない、個人的な投稿であることをご承知おきください。)


【FAX申請のメリット】
本年まで、横浜地検(本庁・支部)では、申請書の「原本」の提出を求めています。

弁護人が、横浜地方検察庁に出向いて閲覧する場合には、
閲覧謄写室(本庁であれば3階)で申請書を提出するため、障壁にはなりません。

ところが、(当職のように)閲覧謄写室では閲覧せずに、申請書だけ提出して、
司法協会にコピーを依頼する場合にも、申請書の原本提出を求められています。
つまり、①原本提出(手渡しまたは郵送)+②受け取り(司法協会で受領または送料有料で郵送)の最大2回出頭が必要でした。

今回の横浜地検の運用変更により、申請書のFAX送付が可能となり、横浜地検への申請書原本提出は不要となります。
「※ファクシミリ送信による申請の場合、本書及び司法協会に対する委任状の各種原本は申請人が保管してください。」という建前です。

2025年1月以降、謄写申請のみを希望する弁護人が、
「申請書」と「司法協会への委任状」を横浜地検にFAX送付するだけで、
担当検事から司法協会への謄写に回してもらえることになります。

また、謄写費用は、認め事件であっても、法テラスが負担しない弁護人負担の半額を日弁連が負担することになりました。
[y-info:6095] 国選弁護制度等の拡充及び刑事弁護活動の支援制度の拡充について(お知らせ)をご参照ください。
>3.記録謄写費用に係る法律援助
>→ 国選弁護人、国選付添人が事件の記録謄写にあたり費用を支出した場合には、申請により一定の補助金が支給されます。
「国選弁護・国選付添事件 謄写費用支給申請兼報告書」(会員ページ要ログイン)


【FAX申請のメリット:支部について補足】
FAX謄写申請は、横浜本庁だけの運用変更ではありません。
もともと、横浜地検本庁内の司法協会は、川崎支部・相模原支部・横須賀支部の会員も利用できます。
※県西支部のみ、弁護士会事務局によるコピー対応となります。

なお、当会のDefense46ページでは、川崎支部は「司法協会に依頼するシステムなし」「セルフコピーのみ」という解説がされていますが、事実誤認です。(横浜地検に確認済みです。)
(川崎を含む)支部の会員には、「司法協会を利用できない」と勘違いされている方もいらっしゃるため、お知らせいたします。

横浜本庁・川崎支部・相模原支部・横須賀支部の会員は、今後、FAXにより謄写申請を完結することが可能となります。(司法協会からの送料は弁護人負担)
なお、県西支部は、弁護士会職員への委任状について、原本不要に対応すれば、同様にFAXにより謄写申請を完結することが可能となります。
(現状、当会の謄写事務では委任状原本を要求していると認識しております。)


【改善経緯】
ここからは、横浜地検が申請書FAX提出を認めるに至った改善経緯についての余談となります。
年末年始、お時間がある方のみ、お付き合いください。

当職は、半ば趣味でExcelシートによる謄写申請書を作成しました。
Excelシートの作成過程において、「なぜ、押印が必要なのか?」疑問を抱きました。
というのも、内閣府の指導により、数年前より、行政機関における押印廃止が進められています。
弁護人に直接関係する場面では、警察署における差入れと宅下げが即座に押印廃止され、便利になりました。
(この点、横浜拘置支所では、いまだに差入れに押印を要求されます。)

そこで、「検察庁が押印を廃止しないのはなぜなのか?」
「押印要求を廃止すればFAX提出が認められるのではないか?」という疑問を抱くに至りました。

(内閣府は、法務省を含む行政機関に対して押印廃止を求めていますが、「検察庁」が含まれていません。)

まず、横浜地方検察庁に出向いて、行政機関情報開示請求をしました(手数料有料でした)。
具体的な要領(書類)を突き止めるまで、最高検察庁に「統一ルールがあるのか?」等を電話で確認していました。

2023年10月に「横浜地方検察庁証拠書類等閲覧謄写事務取扱要領」という書面を入手しました。
このほか情報開示請求により、12月までに東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松(高検所在地の地検)の要領を入手しました。また、埼玉、千葉の要領も入手しました。

横浜地検の要領は、明文で弁護人の押印を求める内容とはなっていないものの、
「公判担当事務官は,弁護人等から証拠書類等の閲覧又は謄写の申出があったときは,
記録証拠品閲覧謄写申請書(様式第1号)(以下「申請書」という。)を提出させる。」とありました。
そして、様式第1号には、氏名の右に印(◯)があり、暗に押印を求める書式でした。

ただ、要領の条文には、押印原本の提出が必須とは明記がないため、
今年に入り、物は試しと、公判部宛にFAXで謄写申請を提出してみました。
すると、検察事務官より、原本を提出するように求める電話があり、FAX謄写は不可能でした。
謄写が遅れて事件に差し支えてしまうと本末転倒ですので、仕方がなく検察庁に原本を提出しました。

このとき、当職は、横浜地方検察庁に対して、FAX謄写を認めるように申入れを行いました。(2024年6月下旬頃)
「東京地方検察庁証拠書類等閲覧謄写事務取扱要領」「東京弁護士会の雑誌LIBRA2020年11月号」を添付しました。

実は、東京地検では、2020年6月8日より、FAX謄写が認められています。
情報開示請求により入手した様式第2号には、以下の記載があります。

>公判部記録閲覧室ファクシミリ番号:03--
>※ファクシミリ送信した本書原本は申請者が保管してください。

「特集:東京弁護士会の新型コロナウイルスへの対応」の
「6刑事弁護,会員窓口,広報について」(著・副会長深沢岳久先生49期)には経緯が記載されていました。
(記事引用)
「5 刑事弁護における会員の利便性向上
緊急事態宣言を受けて人との接触回数を減らすため,私を含む三会の刑事弁護担当副会長が東京地方検察庁と交渉した結果,6月8日から,検察庁は公判係属中の事件の開示証拠の謄写について,検察庁窓口で申請に加えて新たに郵送又はFAXによる申請を可能とした。
これにより,それまで会員は,検察庁へ申請時と受領時の2回出向く必要があったものを,受領時のみ(2回を1回)に削減することができた。」

横浜地検から、しばらく返答がなく、半ば諦め気味にいましたが、
11月下旬の検察官らとの懇談会の中で、上席検察官との話題になり前向きな返事をもらえると聞いて喜んでおりました。
令和6年12月16日付けで、当会宛に「公判係属中の事件に係る証拠書類等の閲覧謄写申請について(通知)」(横地公判第18号)が通知されました。

今後、刑事書証のデジタル開示が法制化される中では、申請不要化やデジタル申請の運用が適切と考えますが、
ひとまず、東京地検に遅れること4年半、横浜地検でもFAX申請が認められたことは歓迎するべきでしょう。



5.時代遅れな日本の謄写制度の問題

以下は、申入れ時に書いた記事の下書きです。
せっかくなので、今回の記念に公開します。


1.閲覧・謄写の機会付与に関する問題

弁護人は、刑事裁判中の証拠書類を検察官から開示を受けます。

検察庁の保管する証拠書類の「コピー」を(させて)もらえます。


このコピー費用は有料であり、弁護士から問題視されています。

証拠開示のデジタル化を実現する会 - 証拠開示のデジタル化を実現する会

https://www.change-discovery.org/


日弁連も、2009年に刑事訴訟法299条1項について

弁護人の指定があるときは電磁的記録によるものとする。」とする

改正案を出しているのですが、法務省(検察庁)が対応していません。

刑事訴訟法第299条第1項等の改正に関する提言(2009年2月20日)

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/090220_1.pdf


2023年末までの法制審議会部会では、

以下の要綱案がまとめられました。

第1-4 電磁的記録である証拠の開示等

1 電磁的記録である証拠の閲覧等の機会の付与

(1) 刑事訴訟法第299条第1項の証拠書類又は証拠物の全部又は一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録に係る同項の規定による閲覧する機会の付与は、相手方に対し、当該電磁的記録の内容を表示したものを閲覧し、又はその内容を再生したものを視聴する機会を与えることによりするものとすること。

法制審議会-刑事法(情報通信技術関係)部会

https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003011_00002

第15回会議(令和5年12月18日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi06100001_00102.html

要綱(骨子)案

https://www.moj.go.jp/content/001408236.pdf

ただし、どこまでの証拠がデジタル化されるのかについて、明記されていません。


※法制審議会に参加された久保有希子先生の記事を参照。

「【特集】刑事手続のIT化」(『NIBEN Frontier』2024年5月号


2.法的根拠

法律上の証拠閲覧(謄写)の根拠は、刑事訴訟法と規則に存在します。

刑事訴訟法299条1項「検察官,被告人又は弁護人が証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては,あらかじめ,相手方に対し,その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては,あらかじめ,相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し,相手方に異議のないときは,この限りでない。」

刑事訴訟規則178条の6「検察官は、第一回の公判期日前に、次のことを行なわなければならない。 一 法第二百九十九条第一項本文の規定により、被告人又は弁護人に対し、閲覧する機会を与えるべき証拠書類又は証拠物があるときは、公訴の提起後なるべくすみやかに、その機会を与えること。」

刑事訴訟法上は「閲覧」としか書かれていないため、

検察庁は「謄写」を便宜供与くらいに思っているのかもしれません。

しかし、これは明らかに誤った解釈です。

終戦直後の刑事訴訟法では、まだコピー機が存在せず

「閲覧する機会を与えるべき」とされた理由は、

弁護人の「謄写」(コピー)自体が想定外だっただけです。

「謄写」を禁止するような趣旨は含まれていません。

弁護人の「謄写権」は、当然に認められるべきです。


具体的な謄写の手続きは、法律・規則に存在しません。

検察庁が謄写して法律事務所に送付すればスムーズです。

しかし、検察庁は、原則、書面による「謄写」申請書を求めています。


一方、弁護人は検察庁に弁号証を無償で交付しています。(FAXや郵送)

弁護人は、検察官に弁号証の謄写請求書を作成・提出することも求めていません。

検察官に「法律事務所に閲覧しに来い」や「法律事務所にコピーしに来い」とは言いません。


また、「検察庁が法律事務所に書証を郵送する方法」を

禁止する規定は存在しません。実務上、郵送が行われています。

比較的時間のかかる裁判においては、

検察庁が、書留郵便で追加書証を郵送しています。

たとえば、裁判員裁判の「統合捜査報告書」(書証)は、

第1案・第2案・第3案とバージョンアップされるため、

弁護人に謄写請求を求めておらず、書留で郵送しています。

緊急の場合、検察事務官が、法律事務所を訪れて交付することもあります。


3.地方検察庁ごとの内規にみる、ご当地事情

筆者は、謄写手続きを定めた検察庁の内規があることを突き止めました。

検察庁に対する「行政文書開示請求」(有償)を行い、書類を入手しました。

@横浜地方検察庁

3 公判担当事務官は,弁護人等から証拠書類等の閲覧又は謄写の申出があったときは,記録証拠品閲覧謄写申請書(様式第1号)(以下「申請書」という。)を提出させる。この場合において,申請者が弁護人の代理人であるときは,委任状の提出を求めるなどして弁護人との関係を確認しなければならない。

「横浜地方検察庁 証拠書類等閲覧謄写事務取扱要領」(平成12年12月1日 横地訓第8号検事正訓令,検察官,検察事務官あて)改正平成25年3月29日

法律と規則で全国の検察庁に閲覧を義務付けているため、

はじめは、全国の検察庁に統一のルール(内規)があるものと思い、

最高検察庁・法務省等に電話で問い合わせを行いましたが、

最高検察庁から「統一のルール(内規)がない」と回答を得ました。

「記録証拠品閲覧謄写申請書」(様式第1号)は、

各地方検察庁の閲覧・謄写室に備え置かれています。

書式は、インターネット上に一般アップロードされていません。


そして、横浜地方検察庁の書式は、

神奈川県弁護士会の会員専用ページにPDFスキャンデータが存在します。

会員ページ>書式>横浜地察>横浜地検書式

様式第1号は弁護士会の会員ページに存在していますが、

その根拠規定が不明でした。


筆者は「記録証拠品閲覧謄写申請書」(様式第1号)に着目しました。【旧版です。】

様式第1号には、記載事項として、以下のセル(マス)が設けられます。

・申請年月日

・希望年月日

・被告人氏名

・罪名

・起訴年月日

・公判期日

・事件の係属する裁判部

・申請人の氏名と印

・申請人の所属弁護士会

・申請人の国選または私選の種別

・申請人の住所または連絡先として電話番号


一般に、「様式第◯号」等という言葉が使われる場合には、

何らかの根拠規定が存在して、対応する様式として定められます。

たとえば、こんなイメージの条文が想定されます。

「検察官は、被告人または弁護人から

記録証拠品閲覧謄写の申請(様式第1号)があったときは、

記録証拠品の内容を精査のうえで、必要な範囲で許可をする。」


※「様式」の例として、検察庁のウェブページにおける

検察庁>関係法令等>各種事務規定 の中に記載のある

証拠品事務規定(法務省)には、「様式第◯号」が58個も登場します。

ところが、「記録証拠品閲覧謄写申請書」(様式第1号)に関する

書式の根拠規定が検察庁ウェブページの関連法令等に見当たりません。


そこで、今回、以下の3箇所に電話で根拠規定を聞きました。

真剣に調査していただき、丁寧にご回答いただいたことに感謝申し上げます。


①.東京地方検察庁の統括

②.最高検察庁の企画調査課

③.法務省の刑事局(検察庁の上級機関)


①東京地方検察庁の統括

(回答概略)

「記録証拠品閲覧謄写申請書」(様式第1号)は、

各地方検察庁で独自に作成されている書式だと考えられる。

東京地検は東京地検で作成しており、

その他の地方検察庁はその他で各々作成している。

様式第1号の根拠規定は、直ちに見当たらない。

②最高検察庁の企画調査課 または

③法務省の刑事局 が担当なので、問い合わせてほしい。


②最高検察庁の企画調査課

(回答概略)

調査の結果、最高検察庁には、閲覧謄写に関する規定は存在しない。

各地方検察庁で定めているはず。

各地方検察庁に内規があるはずだから、問い合わせてほしい。


※仮に最高検察庁に対して「行政文書開示請求」をして

閲覧謄写申請に関する規則・内規の請求をした場合に、

「最高検察庁には当該文書は存在しない」旨のご回答になるのか。

→電話で明言はできないが、おそらく、そのような回答になる。


③法務省の刑事局(検察庁の上級機関)

(回答概略)

最高検察庁に問い合わせてほしい。⇨②最高検察庁の企画調査課


まさか、各地方検察庁で謄写の内規が違うとは、驚きでした。

8庁(支部6庁)・50庁(支部203庁)に、別々の内規があるようです。

なんとも非効率な。。。


6.一般財団法人司法協会のメール回答(2023年)

司法協会(コピー業者)に問い合わせたところ、ご回答をいただきました。

要するに、検察庁が対応できれば、コピー業者も対応可能です。

※1年数ヶ月後の2024年12月、司法協会もFAX可、原本不要化しました。

【筆者から司法協会への質問メール】

謄写委任状への押印省略化のお願い(弁護士川口崇)

2023/08/19 19:15


一般財団法人司法協会御中

複写事業部ご担当者様


お世話になります。弁護士の川口崇と申します。

私は、横浜地方検察庁や横浜地方裁判所における

記録の謄写請求の場面で司法協会に複写を依頼しております。

(年に十数万円分の謄写費用をお支払いしている利用者です。)   


さて、本日は、弁護士から貴協会への

謄写委任状における「押印」の省略化について、

ご対応いただくようにお願いのメールをいたします。


内閣府は、行政機関における押印の省略化をすすめております。

現在までに、行政機関である警察署等においても、すでに

弁護士らの押印を不要(省略)とした取り扱いを開始しています。 


一般財団法人である貴協会は、行政機関ではありませんが、

検察庁庁舎内で、検察庁(行政機関)の記録の謄写依頼を受ける

立場にありますので、歩調をあわせて押印の省略化をご検討いただけないでしょうか。

具体的には、委任状(添付)の「印」を省略化の運用開始をご検討ください。  

お手数をおかけして恐縮ですが、ご検討のうえご回答ください。


【質問事項】

1.委任状への押印の省略化をご検討いただいた結果について。


2.検察庁内司法協会の謄写委任状において、押印を求める理由。

過去の慣例で、押印を求めているだけであれば、その旨お知らせください。 

※弁護人の確認は、事前に検察官が行い謄写申請の許可を出すため、

司法協会が職印により二重に身分確認する必要は無いと考えております。


3.検察庁から「委任状」への押印を求められているのであれば、

その旨(わかる範囲で押印を求められる経緯)をご報告ください。


4.事件担当の検察庁所在地から遠隔地の弁護人が、

押印のない委任状をFAX等で送付してきた場合の対応状況。 


【参照情報】

内閣府:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/i_index.html

法務省:https://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf


・貴協会の委任状記載例(押印を求めています。) 

http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/07/1cfbefc85125a3f9fa50b1d8007d284f.pdf


・貴協会の録音反訳サービスご注文書(押印を求めていません。)

http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/05/a12527def90f953a8c89365f0f0bfd3d.pdf


・貴協会の図書の注文書(押印を求めていません。)

https://www.jaj.or.jp/pdf/bookorder.pdf


弁護士川口崇

(神奈川県弁護士会所属)


【司法協会の回答】

謄写委任状への押印省略化について(ご回答)

2023/08/28 10:32


弁護士 川口 崇 様

 日ごろより当協会に謄写のご依頼を賜りましてありがとうございます。

 ご質問いただきました当協会への謄写に関する委任状への押印の省略化につきましては、以下のとおりです。

 ご不明な点等がございましたら、当職までお問合せください。

 当協会に対する謄写委任状は、謄写代行を行う上で必要とされているもので、委任状の様式及び委任状に記名押印を必要としていることにつきましては、いずれも、検察庁の判断、指示に基づくものです。

また、検察庁における当協会に対する謄写のご依頼は、検察庁の担当窓口で必要書類が作成され、依頼者が当協会の窓口に来られることがなく、記録が貸し出されるまではご依頼のあったことが当協会として分からないため、貸し出された記録とともに受け取る謄写委任状に依頼者である弁護士の記名及び職印の押印があること等に基づいて、弁護士から当協会に対し、委任状記載の内容のとおり謄写代行のご依頼が間違いなくなされている、と確認、判断させていただいております。

今後、謄写委任状に押印が必要ないと検察庁において判断されました場合には、当協会としてもその判断に当然従わせていただきますが、当協会に対する謄写代行依頼の事実をどのように確認するかの問題が残ります。

この問題につきましては、現時点では、謄写委任状に押印が不要とされた場合に代替措置が採られるのかどうかも明らかでありませんが、ご依頼の事実の確認方法となる別書面作成その他の方法につきまして、今後、検討していきたいと考えています。

〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆

  一般財団法人司法協会

     複写事業部長 常務理事 ・・・・

〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-4 東京高等裁判所内

       電話 03-3591-3700   FAX  03-3591-3722

☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓☆〓


当職より、司法協会に対して返信したメールです。

【筆者から司法協会への返信メール】

2023/10/10 12:39


司法協会御中

常務理事 ・・・・様


お世話になります。川口です。


ご返信いただき、ありがとうございます。

刑事訴訟法299条1項及び刑事訴訟規則178条の6では、

検察官が証拠記録を弁護人に閲覧させる機会を与える義務のみを規定しています。

つまり、法律上、弁護人の署名や押印等は求められていません。

・検察官が、弁護人に証拠を閲覧させるべき義務を規定しています。

・弁護人は、検察官が証拠を閲覧させるべき義務に協力している法の建付けです。


しかし、一方で横浜地方検察庁内の要領において、

かなり昔から申請書に「様式第1号」が用いられ、押印欄があります。

そこで、横浜地方検察庁に要領の行政文書の開示請求をしました。


横浜地方検察庁証拠書類等閲覧謄写事務取扱要領

「公判担当事務官は,弁護人等から証拠書類等の閲覧又は謄写の申出があったときは,

記録証拠品閲覧謄写申請書(様式第1号)(以下「申請書」という。)を提出させる。」


条文上は、申請書に弁護人の押印を求めていないことがわかりました。

(様式第1号に、印というマークがあるだけです。)


(対・検察庁の関係)

「申請者が弁護人の代理人であるときは、

委任状の提出を求めるなどして弁護人との関係を確認しなければならない。」


まず、(司法協会に謄写依頼をする場合も)「申請者」は弁護人です。

この規定は、司法協会が代理人である場合には、そのまま当てはまりません。

(支部の弁護士会等で、弁護士会職員が申請書に記載する場合を想定した規定です。)


つぎに、この条文でも「委任状など」に押印を求めていないことがわかりました。

委任状の書式も特に決められていません。貴協会が決めることで足ります。

つまり、押印見直しも可能です。


また「委任状の提出を求めるなどして弁護人との関係を確認」することが目的です。

・弁護士(会)の事務職員等に関しては、関係確認をする必要はあります。

・司法協会の職員様に関して、検察庁側との継続的な契約関係がありますから

弁護人から謄写の依頼を受ける以外で、職員様が謄写をする可能性は考えられません。


先立って、別途、検察官への謄写申請書の提出がされ、検察官が弁護人の確認をしています。

関係のない弁護士が謄写請求をした場合には、検察官が謄写請求自体を拒否しています。

検察官による司法協会職員様の人定は不要であり、実際には委任状による確認は不要です。


謄写申請書(様式第1号)自体に「☑司法協会への謄写を依頼します。」

という記載があれば、別途委任状がなくとも、検察庁は司法協会に記録を回すべきです。



(対・弁護人の契約関係)

・・様のメールを引用します。

>謄写委任状に依頼者である弁護士の記名及び職印の押印があること等に基づいて、

>弁護士から当協会に対し、委任状記載の内容のとおり謄写代行のご依頼が間違いなくなされている、

>と確認、判断させていただいております。


「委任状」は、弁護人・司法協会間の謄写依頼の契約関係を示す書類として機能します。

委任状に押印がなくとも、弁護人が謄写費用を支払わない危険は無いでしょう。

※不払いを危惧するにしても、押印があってもなくても、不払いの危険は同じです。


謄写代行依頼は、弁護人が委任状を作成すれば、

弁護人の氏名は当然記載されますので、特段の問題とはならないものと考えております。


司法協会の録音反訳サービスと図書の注文書では、

押印を求めておりません。ただ、司法協会は依頼を確認できています。

謄写の委任状に関してのみ、特段の押印を求める理由はないと考えます。

・・様ご記載のとおり、検察庁の判断、指示に基づく慣行といえます。


【参照情報】

内閣府:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/i_index.html

法務省:https://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf


・貴協会の委任状記載例(押印を求めています。) 

http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/07/1cfbefc85125a3f9fa50b1d8007d284f.pdf


・貴協会の録音反訳サービスご注文書(押印を求めていません。)

http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/05/a12527def90f953a8c89365f0f0bfd3d.pdf


・貴協会の図書の注文書(押印を求めていません。)

https://www.jaj.or.jp/pdf/bookorder.pdf


現時点で把握している情報を共有させていただきます。

当職は、東京地方検察庁に対しても要領の情報開示請求をしております。

本件について、継続的に調査のうえ、検察庁に「押印の見直し」を求めます。

法務省の押印見直し結果:https://www.moj.go.jp/hisho/shomu/hisho01_00179.html


貴協会にも、引き続きご協力いただくようによろしくお願いいたします。


川口崇



〆 横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇


著作権法32条1項に基づく引用

・本稿の引用論文は、著作権法32条1項の「批評、研究」の目的で引用しています。

・本稿の引用論文は、各著者・各出版社・各弁護士会が著作権等の権利を有します。


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