認め事件で甲号証を不同意と証拠意見するべきパターンの整理試案~証拠意見のゲーム理論について~©️2026川口崇弁護士
本稿は、認め事件で甲号証を不同意と証拠意見するべきパターンの整理を試みる内容です。
(本稿は、執筆途中です。追記を予定しています。)
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| 証拠意見は、検察官🤜と🤛弁護人の殴り合い🐷 ©1992 Studio Ghibli・NN |
1.甲号証も原則不同意ですよ…?
とある初心者弁護人(A君)と、
認め事件の証拠意見について会話をしており、
「検察官請求証拠への弁護人の証拠意見は、
甲号証も原則不同意ですよ?」という助言をしました。
たとえば、新書書店における万引き事件を想定します。
被告人は、窃盗の公訴事実は認めています。
検察官が、中古書籍買取販売店の買取履歴(店長作成の売却日・売却物品・売却点数・買取金額が記載された書証、甲第10号証)を請求します。
この場合に、弁護人は甲第10号証に同意して良いか?という設例が考えられます。
A君は、「被告人に証拠の内容を確認して、
事実(売却品、金額、日付等)が正しければ、同意します。」と回答しました。
しかし、「被告人の言う事と証拠の内容が合致していれば同意して良い」という回答は、間違いです。
ある程度、ベテランの弁護人であっても、
安易に同意してしまう方が多いのだろう、と察します。
(実務では、乙号証の供述調書は不同意にしなければなりませんし、)
甲号証にも、不同意にするべき証拠が一定数紛れ込んでいます。
そのため、「証拠意見書を作成しなくて良い事案」は、ほぼ存在しません。
弁護人の証拠意見は、甲号証であっても
弁護人視点で「関連性・必要性があるか」を基準として判断するべきです。
検察官の立証対象は、公訴事実(新書書店で書籍を窃取したこと)にあります。
(証拠により立証できない事実は、冒頭陳述でも論告でも主張を控えるはずです。)
公訴事実を立証する証拠「以外」の証拠は、
「弁護人の視点」から見て、立証の関連性・必要性がありません。
「弁護人の視点」こそが大事であり、
「検察官の視点」から見た立証の関連性・必要性を基準に判断してはなりません。
一方で、弁護人の中には、
甲号証を不同意にした場合のデメリットを気にしすぎて、
安易に甲号証に同意してしまう方も存在します。
不同意の事実上のデメリットには、
「検察官が証拠(甲号証)に代えて、
代替立証として証人として作成者等を請求して、
公判期日が増えてしまう"可能性"」が考えられます。
公判期日が増えることは、たしかにデメリットです。
在宅事件や保釈中の事件であれば、
被告人に1期日多く裁判所に来てもらう不便に留まります。
しかし、被告人勾留中の身柄事件では、
被告人の勾留が1期日分伸びてしまい、
(公訴事実を認めている事件では特に)
被告人にとってデメリットがより大きいと言えます。
では、本当に、「不同意」で公判期日が増えるのか?
公判期日追加のリスク計測について、
新たな視点を加える提言が、【証拠意見のゲーム理論】です。
2.「証拠意見のゲーム理論」の発見
「ゲーム理論」というと大げさに聞こえます。
(一般的な「ゲーム理論」は、Wikipedia等を参照してください。)
証拠意見のゲーム理論とは、
「ある証拠を不同意にした場合に、
検察官が、その甲号証の代替立証として、
作成者の証人請求をする可能性があるか?」
を具体的に検討する、ということです。
筆者(川口崇弁護士)が、独自に定義づけました。
(本稿オリジナルです)
たとえば、冒頭の窃盗事件において、
弁護人が、「中古書籍買取販売店の買取履歴
(店長作成の売却日・売却物品・売却点数・買取金額が記載された書証、甲第10号証)」
の証拠意見を「不同意」にした場合に、
検察官は、買取履歴の作成者である店長を証人請求するでしょうか。
具体的に検討してみましょう。
もちろん、検察官は、どんな人物であっても、
証言をお願いして、裁判所へ証人請求することができます。
そのため、検察官が、立証のために、
本当に店長の証言を必要としているならば、
証人尋問を請求することでしょう。
しかし、甲第10号証で立証される事実は、
窃盗終了後の被害品の転売行為を内容としています。
「公訴事実」(新書書店での窃盗)自体ではありません。
窃盗後の転売行為は「重要な情状事実」でもありません。
すなわち、窃盗事件における立証対象は、
・被告人が新書書店で書籍を窃取したこと であり、
これを、被告人は罪状認否で認め、AQでも認めます。
一方、甲第10号証から想定される立証趣旨である
①被告人が被害書籍を中古書店で転売したこと
②被害書籍の中古書店における転売の金額
は、本件窃盗との関係で不可罰的事後行為です。
この情報は、裁判官が有罪判決を出すにあたり必須でしょうか?
ほとんどの裁判官は、「必須ではない」と考えるはずです。
弁護人視点で見れば、「関連性・必要性がない」といえます。
(または、「関連性があっても、必要性がない」場合もあります。)
検察官も、「裁判官が必須ではない情報だと考える」ことは、わかっています。
裁判官は、必須ではない情報のために、
証人尋問をするための期日が増えることを嫌います。
(新書書店の店長を呼ぶならばまだしも、)
中古書店の店長を証人として呼ぶ必要性は認められないでしょう。
そうすると、弁護人の頭では、
「甲第10号証を不同意にした場合に、
検察官が、甲第10号証の代替立証として、
中古書店店長を証人請求する可能性は無い」
という推測をすることができます。
検察官の証人請求がされる可能性がないのであれば、
期日が増えてしまうデメリットもありませんから、
弁護人は「甲第10号証を不同意とするべき」と結論付けられます。
ところで、検察官は、
検察官視点で見た「証拠意見のゲーム理論」から、
「ワンチャン請求」をした方が得だ、との結論に至り、
裁判官視点で必須ではない証拠も含めて、請求しています。
「裁判官が必須ではない情報だと考える」ことは、
検察官もわかっています。検察官は刑事事件のプロですから。
しかし、同時に、検察官は弁護人が「同意」してくれれば、
裁判官の多くは「法326条で採用してくれる」こともわかっています。
残念ながら、多くの裁判官は、
弁護人の証拠意見が「同意」の場合に、
採用前には、証拠の関連性・必要性を吟味せず、
請求されるまま、証拠を採用してしまうからです。
そこで、検察官は、弁護人が「同意」してくれることに甘えて
本来は「必須ではない」証拠を、「ワンチャン請求」しています。
(警察送致の証拠を丸々「スライド請求」しているだけにも見えます。)
刑事訴訟法326条1項の弁護人の「同意」をもらい、
本来、吟味されるべき「関連性審査」「必要性審査」をパスしたい
という、検察官の思惑が存在しています。
そうすると、検察官は、弁護人が
このように思ってくれると嬉しいはずです。
・「不同意と意見すると、検察官が、全て、作成者を証人請求する」
・「不同意と意見すると、当日中に結審できず期日が増える」
このように思い込ませる(勘違いさせる)ことができれば、
期日追加のデメリットから、弁護人が同意する可能性が増えます。
検察官にとっては、儲けモノです。
ここに、検察官の「証拠意見のゲーム理論」が存在しています。
検察官にとって、不同意の証拠意見を出さない弁護人は、
「ワンチャン請求」をしても、同意して証拠採用されるため、
検察官視点で「お客さん(チョロい弁護人)」です。
弁護人は、検察官の「ワンチャン請求」を見抜いて、不同意にすべきです。
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| 「証拠意見のゲーム理論」の整理図©️2026川口崇弁護士 |
※「関連性」について、
過去の「法律的関連性」や「自然的関連性」という
言葉のニュアンス・枠組みで捉えることは、理解不足です。
関連性と必要性については、関連記事で引用する論文を参照のこと。
このほか、
>甲第10号証から想定される立証趣旨である
>①被告人が被害書籍を中古書店で転売したこと
>②被害書籍の中古書店における転売の金額
以外の有害的な記載があれば、
必ず不同意にして、排除しなければなりません。
たとえば、甲第10号証
③窃盗事件「以外」の窃盗事件で転売をした書籍の点数・金額
が記載されていることがあり、
検察官の「ワンチャン請求」による印象操作です。
(真面目な弁護人の多くは、
有害的記載部分を「一部不同意」にしていたかもしれません。
しかし、上記のとおり、(甲10)「全部不同意」が適切です。)
たしかに、検察官から見れば、
他の窃盗事件の被害品を転売したことを疑わせる証拠であり、
「本件窃盗との[関係]があるんだ!」と言いたい感情はわかります。
これが、「ワンチャン請求」の動機でしょう。
しかし、(まともな)弁護人から見れば、
公訴事実になっていない犯罪行為について、
他の窃盗事件の被害品を転売したことを疑わせる証拠は、
まるで「関連性」が無い証拠であり、不同意にすべきです。
(被告人にとって不利になるから不同意という観点もありますが、
刑事訴訟法の「関連性」の有無は「有利or不利」以前の問題です。)
3.不同意の証拠意見により、「論告」を牽制する
真面目に証拠意見を考えて何の意味があるのか?
という疑問を抱くかもしれません。
しかし、論告の仕組みがわかれば、重要なことだとわかります。
検察官は、証拠に基づかない論告をしてはなりません。
P証拠請求をして、J証拠採用をされて、
はじめて、立証された事実について、
「論告」で主張することができます。
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| 「証拠意見のゲーム理論を理解する弁護人」と「検察官のお客さん弁護人」の帰結の比較 ©️2026川口崇弁護士 |
「証拠意見のゲーム理論を理解する弁護人」が、
適切に「不同意」の意見を述べた場合には、
Pが証人請求をしないで、論告を述べることになります。
(またはPが証人請求を試みても、
Jが証人尋問は不要と考え却下します。)
そうすると、不同意にした証拠に含まれる
被告人にとっての不利益事実について、
検察官は、論告で主張することはできません。
甲第10号証の例で論告をいえば
「被告人は、窃取した書籍を転売して、
売却利益を得ており、悪質である。」等の
不利益事実を主張することが想定されます。
検察官は、証拠に基づかない論告をしないために、
弁護人から送付された「不同意」の証拠意見を前提に、
「同意」書証を前提として、論告を組み立てることになります。
不同意の証拠意見書には、論告を牽制する役割があります。
つまり、お客さん弁護人が、何も考えずに
「(全て)同意」の証拠意見を述べた場合と比べて、
「不同意」の証拠意見を述べた場合には、
論告の内容から不利益事実が除かれることとなり、
被告人にとって、相対的に有利な内容になります。
著作権法32条1項に基づく引用
・本稿の引用論文は、著作権法32条1項の「批評、研究」の目的で引用しています。
・本稿の引用論文は、各著者・各出版社・各弁護士会が著作権等の権利を有します。
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