同一の勾留決定への「再度の準抗告」への回数制限はない。しかし内容審査のうえで同一理由だと「不適法」棄却される可能性がある。©️2024川口崇弁護士

1.準抗告の回数制限の質問

筆者は、2023年夏、後輩弁護士から質問を受けました。


後輩「勾留の準抗告は1回まで

というインターネット情報があるのですが、

実際には回数制限はありますか?」

筆者「条文に無いから回数制限は無いはず!」


筆者の回答を受けて、後輩弁護士は、

刑事訟廷係の裁判所書記官に電話したところ

「準抗告には回数制限がない」ことを確認しました。

(ただ、その後の経緯で2回目の準抗告はしなかったようです。)


2.法務省の見解では、準抗告申立てに回数制限はない

本稿作成にあたり調査をしたところ、

法務省の法制審議会の議事録がヒットしました。

準抗告申立てに回数の制限がないこと」は、法務省の公式見解です。

法制審議会-刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会

刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会第4回会議(令和3年8月24日開催)

法務省刑事局刑事法制管理官 吉田雅之氏(東京地方検察庁検事※書籍の経歴より)

○吉田幹事

御指摘の点(※勾留手続における秘匿措置に係る個人特定事項の通知請求の回数制限の有無)については,基本的に,現行法の下での不服申立てについての回数制限に関する考え方と同様に考えることができるのではないかと考えております。

準抗告や抗告について,現行法上,特段回数の制限というものは設けられておりませんので,回数として制約を設けるということは考えにくいと思います。

その上で,実際には,抗告の利益があるかどうかといったことも問題になるかもしれませんし,また,その理由となっている事情に特に変更がないまま不服申立てが繰り返されるということになりますと,請求・申立て自体は可能であっても,それが認容される可能性は低いということになるのではないかと現時点では考えております。


西愛礼弁護士(元裁判官)は、2023年10月11日、

X(Twitter)で「回数制限はない」と明言しています。

西愛礼先生の情報発信を引用させていただきます。


※「最決h31.3.13」は(被疑者段階の勾留準抗告ではなく)、

被告人段階の接見禁止解除の準抗告(特別抗告)の事案でした。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88525

https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-081291838_tkc.pdf

「被疑者段階」の「勾留準抗告」と、

「被告人段階」の「接見等禁止解除準抗告」との差異があります。

近畿大学法学第67巻第1・2号被告人の家族等との接見交通権とその制限(津金貴康=辻本典央)」(15頁-16頁)が参考になります。

(3) 準抗告審の意義と機能

前述のとおり,本最高裁決定は,被告人に対する接見禁止決定を不服とする弁護人からの2度目の準抗告に基づいて下されたものである。これは,初度目の準抗告を棄却した決定が確定したことによって生ずる既判力に反しないのであろうか。

この点を説明する理論付けとして,第一に,接見禁止決定は勾留に付随して下されるものであり,勾留が更新(刑訴60条2項)されるごとに接見禁止決定も更新されるのであり,それぞれの時点で新たに準抗告を提起することができるとする考え方と,第二に,接見禁止決定に独自の問題とし,既判力論をひとまず考慮の外に置く考え方が想定できる。第一の考え方は,既判力論に忠実であるが,形式的に過ぎ,かつ,更新時に必ずしも接見禁止についても明確に「決定」がされているわけではないという実務の実態に沿わない。むしろ,勾留本体と同様に,接見禁止処分についても,手続の進展及び時間の経過によって実体要件の存否に変動が生ずるのであり,勾留取消請求に準じた取扱いが認められたものと考えるべきであろう。これによると,少なくとも手続状況に変動が生じ,接見禁止決定の必要性要件が具備されなくなったと考えられるときには,その都度,処分の取消し又は変更(一部解除など)を求めることができることになる


3.ネット記事で「準抗告申立ては1回まで」の不正確情報が流布されている


各弁護士によるインターネット記事には、

準抗告申立ては1回まで」の情報が掲載されています。

その内容は、3種類に分別されます。

①「勾留で1回・勾留延長で1回。合計2回。

②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別もなし。)

③「準抗告は1回しかできないから、慎重に!


刑事弁護ビギナーズ(2008年~)が情報ソースかもしれません。

どのネット記事も情報ソースがないため、初出がわかりません。


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別もなし。)

勾留に対する準抗告、勾留理由開示請求が、1つの勾留に対して1回しか認められないのに対し、勾留取消請求は、事情の変更があれば何度でも認められる。この点が、勾留決定に対する準抗告と勾留取消請求の大きな違いである。

したがって、勾留の理由または勾留の必要がなくなったというべき事情が生じた場合には、何度も勾留取消請求をすべきである。」

刑事弁護ビギナーズver.2.1現代人文社@2019年・65頁)

刑事弁護ビギナーズver.2(現代人文社@2014年の旧版・63頁)

刑事弁護ビギナーズ(現代人文社@2008年の初版・51頁)


※「(5)勾留取消請求」の項目で、

「準抗告と勾留理由開示請求」の回数制限が

勾留取消請求との比較として書かれています。

(「準抗告」の項目の記載ではありません。傍論です。)


・「準抗告」の回数制限は、不正確です。本文「(2)勾留決定に対する準抗告」では特に回数制限の記載はありません。

・「勾留理由開示請求」の回数制限は、実務に正確です。本文「(4)勾留理由開示請求」では「同一勾留継続中に認められる勾留理由開示請求は1回に限られるとされるため(最一小決昭29・8・5刑集8巻8号1237頁)、いつ請求するかは重要である。」と解説されます。※後述「5.「勾留延長理由開示請求」を申立てた結果」で述べますが、昭和29年ほか最高裁判例は、被告人段階の「再度の勾留理由開示請求」を却下する内容であり、被疑者段階の「再度の勾留理由開示請求」を却下する内容ではありません。そのため、判例の射程が直接及ぶような解説は言い過ぎているように感じます。(ビギナー向けの解説としては、実務の紹介として、この程度で良いかもしれません。)


弁護士によるインターネット記事(2024年5月検索)

※閲覧時、いずれも情報ソース(引用元)の記載がありません。


①「勾留で1回・勾留延長で1回。合計2回。」(再度の準抗告について、明言なし。)

執筆者未記載(所属者:髙橋俊彦弁護士・布川佳正弁護士・竹内明美弁護士・贄田健二郎弁護士・船戸暖弁護士)・立川フォートレス法律事務所

「■Q10 勾留決定に対する準抗告とその後の手続を教えてください。

■A10 準抗告申立書の提出先は、当該審級の刑事事件係です。

準抗告に対する決定書は弁護人と被疑者両方に送達されます。

準抗告棄却決定に対しては、決定書が送達された日から5日以内(被疑者に先に送達されたら被疑者に送達された日から。当日は不算入。)に特別抗告ができます。最高裁を宛先とした特別抗告申立書を、準抗告棄却決定をした地裁に提出します。

勾留に対する準抗告は、1つの勾留に対して1回可能。すなわち、1回目の勾留に対して1回、延長後の勾留に対してもう1回できます。

https://www.tf-law.jp/keijibengo/qa/

https://web.archive.org/web/20160522043003/https://www.tf-law.jp/keijibengo/qa/

「Q.勾留決定に対する準抗告とその後の手続を教えてください。

A.準抗告申立書の提出先は、当該審級の刑事事件係です。

準抗告に対する決定書は弁護人と被疑者両方に送達されます。

準抗告棄却決定に対しては、決定書が送達された日から5日以内(被疑者に先に送達されたら被疑者に送達された日から。当日は不算入。)に特別抗告ができます。最高裁を宛先とした特別抗告申立書を、準抗告棄却決定をした地裁に提出します。

勾留に対する準抗告は、1つの勾留に対して1回可能。すなわち、1回目の勾留に対して1回、延長後の勾留に対してもう1回できます。

https://tf-law.jp/faq/

https://web.archive.org/web/20220626115225/https://tf-law.jp/faq/


①「勾留で1回・勾留延長で1回。合計2回。

「2回(最初の勾留と勾留延長)しかできません」

(著)中川浩秀弁護士・東京スタートアップ法律事務所

「なお、勾留に対する準抗告は2回(最初の勾留と勾留延長)しかできませんが、不成立の場合は特別抗告で違憲を主張することも可能です。」

https://tokyo-startup-law.or.jp/legalpark/category02/koryukikan/

https://web.archive.org/web/20231105063534/https://tokyo-startup-law.or.jp/legalpark/category02/koryukikan/


①「勾留で1回・勾留延長で1回。合計2回。」「のみです。」

(著)萩原達也弁護士・ベリーベスト法律事務所代表弁護士(監修)

準抗告には回数の制限があり、刑事事件における勾留に対する準抗告は1勾留に対して1回のみです。勾留は初回・延長請求の2回で、準抗告が可能となるのも2回に限られます。そのため準抗告が認められなかった場合は、特別抗告によって対抗することになります。

https://keiji.vbest.jp/columns/g_other/5320/

https://web.archive.org/web/20210725004908/https://keiji.vbest.jp/columns/g_other/5320/


①「勾留で1回・勾留延長で1回。合計2回。」「準抗告は1回しかできない」

③「準抗告は1回しかできないから、慎重に!」「いつやるかのタイミングも重要」

弁護士JPコラム(著)杉山大介弁護士・ベリーベスト法律事務所 北千住オフィス

為せば成る、為さねば成らぬの身柄解放~逮捕勾留:裁判所対応編~

「③準抗告」

「「準抗告」とは、すでになされた勾留決定、勾留延長決定について異議を申し立てて、別の裁判官による判断を求めるものです。裁判実務も割れているところですが、勾留決定、勾留延長決定それぞれに対して準抗告が可能なことから、勾留決定に対する準抗告では罪証隠滅・逃亡・勾留による不利益の大きさを判断対象に、勾留延長決定に対する準抗告では捜査機関に身柄拘束での捜査を続ける理由があるかを判断対象にする、と考える裁判官もいるようです。この点の峻別(※厳しくけじめをつけること)がついていないと、裁判所がそもそも申し立てを受け取らないこともあるため、注意が必要です。また、準抗告は1回しかできないため、いつやるかのタイミングも重要です。

https://ben54.jp/column/crime/225

https://web.archive.org/web/20240430182554/https://www.ben54.jp/column/crime/225


※筆者コメント:「裁判所がそもそも申し立てを受け取らない」とは何でしょう?

書記官が受領拒否(あり得るのか)?裁判所が却下する?筆者にはわかりません。


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別なし。)

執筆者未記載(代表 則竹理宇弁護士)・弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所

「上記の勾留決定に対する準抗告は1回の勾留につき1回しかすることができません。しかし、勾留取消請求は、窃盗事件で勾留された場合でも事情に変更さえあれば1回の勾留で何回でも行うことが可能です。」

https://settou-bengosi.com/settou_kouryu/ 

https://web.archive.org/web/20160721013943/https://settou-bengosi.com/settou_kouryu/


執筆者未記載(代表 則竹理宇弁護士)・弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所堺支部

勾留に対する準抗告が、1つの勾留に対して1回しか認められないのに対し、勾留取消請求は、事情の変更があれば何度でも認められます。

https://sakai-keijibengosi.com/column/kouryuukettei-zyunkoukoku-soukisyakuhou/

https://web.archive.org/web/20200919221655/https://sakai-keijibengosi.com/column/kouryuukettei-zyunkoukoku-soukisyakuhou/


執筆者未記載(代表 則竹理宇弁護士)・弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所

準抗告は、同じ勾留決定に対して1回しか申し立てることはできません。

https://nara-keijibengosi.com/kouryuu/ ※奈良のウェブページ

https://web.archive.org/web/20220519082059/https://nara-keijibengosi.com/kouryuu/


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別なし。)

(著)田中翔弁護士・弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長

準抗告は、勾留決定が誤っているから取り消すよう求めるものであり、1回しか申立てはできないこととされています。準抗告の判断は、勾留決定をした裁判官とは異なる裁判官3名により行われます。

勾留取消請求は、勾留決定そのものが誤っていたかではなく、勾留決定後の事情からすれば現時点では勾留の必要がないとして勾留の取り消しを求めるものです。準抗告とは異なり、こちらは回数の制限はありません。」

https://luminous-law.com/news/15799/

https://web.archive.org/web/20230530104045/https://luminous-law.com/news/15799/


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別なし。)

執筆者未記載(所属:井上正人弁護士・谷元建介弁護士)・夕陽ヶ丘法律事務所

「準抗告と勾留取消請求

(1)裁判所が勾留決定された場合、弁護人としては、勾留決定の準抗告もしくは勾留取消しの手続をすることが考えられます。

(2)勾留決定については、「勾留の要件を満たさないのに勾留許可が出されている。」と主張し、準抗告をすることができます(刑訴法429条)。

(3)勾留の理由または勾留の必要がなくなった場合には、勾留取請求ができます(刑訴法87条)。

(4)勾留に対する準抗告は、一つの勾留に対して1回しか認められないのに対し、勾留請求は事情の変更があれば何度でも行うことができます。」

(原文ママ。後者「勾留請求は」→「勾留延長請求は」の誤記と思われます。)

https://yuhigaoka-law.com/keiji-bengo/%E5%8B%BE%E7%95%99%E6%B1%BA%E5%AE%9A%E5%BE%8C%E3%81%AE%E6%BA%96%E6%8A%97%E5%91%8A%E7%AD%89/

https://web.archive.org/web/20230610220755/https://yuhigaoka-law.com/keiji-bengo/%E5%8B%BE%E7%95%99%E6%B1%BA%E5%AE%9A%E5%BE%8C%E3%81%AE%E6%BA%96%E6%8A%97%E5%91%8A%E7%AD%89/


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別なし。)

「再度の準抗告はできないため、一度きりの不服申し立てとなります。」

③「準抗告は1回しかできないから、慎重に!」(に準ずる)

(著)枝窪史郎弁護士・弁護士法人オリオン法律事務所

準抗告に対してなされた決定に対しては、再度の準抗告はできないため、一度きりの不服申し立てとなります。そのため、準抗告をするにあたっては、弁護士は、接見により、十分に事情を聴取した上で行うことになります。

https://keiji.itlawyer.jp/4-7.html

https://web.archive.org/web/20240430154158/https://keiji.itlawyer.jp/4-7.html


②「勾留で1回。」(①の勾留延長の区別なし。)

③「準抗告は1回しかできないから、慎重に!

(著)上原幹男弁護士・上原総合法律事務所

元検事の弁護士による刑事事件法律相談

逮捕(たいほ)の種類や逮捕されたらどうすべきか、元検事の弁護士がわかりやすく解説

「※準抗告について

裁判官が勾留を決定してしまったら,弁護士による異議申し立てをすることができます。

この異議申し立てのことを「準抗告」と言います。

弁護人が準抗告をして,言っていることが正しいと認めてもらえたら釈放されます(準抗告認容,と言います)。

準抗告は1つの勾留決定に対して一回しか準抗告ができません。

準抗告するタイミングはケースバイケースです。

準抗告は,勾留決定のすぐ後に出されることが多いですが,例えば,逮捕されている方にとって有利な証拠が手に入りそうな時は,その証拠が手に入るのを待ってから準抗告をする,という戦略的な判断もあり得ます。

https://keiji-kaiketsu.com/hurry/taiho/

https://web.archive.org/web/20221209085308/https://keiji-kaiketsu.com/hurry/taiho/

※過去の版には上記記載はありません。上記記載は追加されました。

初版:https://web.archive.org/web/20201116175331/https://keiji-kaiketsu.com/hurry/taiho/


元検事の弁護士による刑事事件法律相談

逮捕された直後にやるべきことを元検事の弁護士が解説します

準抗告のタイミングも大切

準抗告においては、勾留決定時以降に生じた事情も実質的に考慮してもらえるため、すべての事案で勾留決定後すぐに準抗告することが最善ではありません。

また、準抗告は1つの勾留決定に対して1回しかすることができません。 証拠収集や示談交渉等の状況を踏まえ、準抗告の最適なタイミングを探る必要があります。

https://keiji-kaiketsu.com/hurry/%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%9B%B4%E5%BE%8C%E3%81%AB%E3%82%84%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%90%E6%A6%82%E7%95%A5%E3%80%91/

https://web.archive.org/web/20240430183047/https://keiji-kaiketsu.com/hurry/%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%9B%B4%E5%BE%8C%E3%81%AB%E3%82%84%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%90%E6%A6%82%E7%95%A5%E3%80%91/


刑事訴訟法上「申立て」に回数制限はありませんから、

弁護人は「再度の準抗告の申立て」をすることができます。

「再度の準抗告の申立てはできません」は、不正確な情報です。

各解説が「再度の準抗告は棄却される可能性があります。」に留めず、

明確に「勾留1回or合計2回の回数制限がある」と解説しており、

再度の準抗告はできない。」と断言している、と筆者には読めます。


不正確な情報は、準抗告申立てを萎縮させるため、修正されるべきです。

弁護人と被疑者は、不当な勾留に対して、何回でも準抗告するべきです。

準抗告の認容・棄却は、証拠を閲覧できない弁護人にはブラックボックスです。

「再度の準抗告」を申立てでも、裁判体に働いてもらうしかありません。



以下のような解説がより正確です。

・勾留と勾留延長への各1回は「初回の準抗告」です。

・勾留と勾留延長への各1回は「再度の準抗告」ではありません。

・弁護人は同一勾留に対し、2回目の「再度の準抗告の申立て」をできます。

・弁護人は同一勾留延長に対し、2回目の「再度の準抗告の申立て」をできます。

刑事訴訟法上、回数の制限は設けられていません(法務省見解も同趣旨)。

・裁判所は「再度の準抗告の申立て」を理由として、直ちに不適法にできません。


裁判所が「準抗告を認めるか」は内容次第です

(「初回」「再度」の準抗告ともに、認容・棄却は内容次第です。)

裁判所は「同一理由の再度の準抗告」を棄却します。

同一理由と判断される場合、不適法で棄却の扱いとなります。


・裁判所は「再度の準抗告の申立て」の場合に、

「初回」「再度」の準抗告が同一理由かどうかを審査します。

・裁判所は、「初回」の準抗告のあと事情変更があった場合に、

「再度」の準抗告理由の事情変更の内容の審査をして決定します。

・裁判所は、「初回」「再度」の準抗告が同一理由の場合には、

不適法で棄却します(法432条、426条1項「準抗告が理由のないとき」)


※ただし、弁護人は被疑者段階で証拠を見られませんし、

検察官の準抗告反対意見書の謄写さえ認められませんから、

同一理由で不適法な再度の準抗告かは、実はブラックボックスです。

弁護人にとってみれば、結局のところ、

「同一理由ではないから適法(認容)」か、

「同一理由であるから不適法(棄却)」か、決定までわかりません。


特に、③「準抗告は1回しかできないから、慎重に!」は同意できません。

たとえば、勾留2日目に勾留準抗告(初回の準抗告)を提出できるのに、

勾留3日目~9日目の将来に被害者との「示談」成立の可能性があるから、と

あえて勾留2日目の初回の準抗告をしない作戦は、果たして効果的なのでしょうか。

(10日間に初回と再度の準抗告をするパターン)⇨釈放チャンスが2回。

・初回の準抗告(勾留2日目)⇨認容なら釈放。棄却なら勾留継続。

・再度の準抗告(勾留3日目~9日目)⇨認容なら釈放。再度の準抗告でも、示談成立の事情を審査する。

(10日間に準抗告だけをする③慎重にパターン)⇨釈放チャンスが1回

・勾留2日目の準抗告をしない⇨準抗告認容なら釈放の可能性を捨ててしまう。

・勾留3日目~9日目の準抗告⇨準抗告認容なら釈放。示談成立の事情を審査する。示談成立でも釈放が確実ではない。初回の準抗告だから(再度の準抗告ではないから)特段に有利ということはない。

※問題設定について。

・勾留10日で延長(P請求・J決定)しないのであれば、釈放。勾留9日目までに準抗告する必要がある。

・勾留10日で延長(P請求・J決定)するのであれば、勾留延長への初回の準抗告が可能。勾留延長への再度の準抗告にもならず、リセットされる(イメージ)。


執筆者弁護士への伝言:ネット記事の編集時に本稿の記載をコピペや引用する場合、必ず本稿のURLにリンクしてください。著作権法48条の出処の明示をお願いします。

なお、編集前の不正確情報についても「刑事弁護ビギナーズ(ver●)」や他の書籍を引用した旨を記載するべきです。


4.「再度の準抗告」を申立てた結果

理屈だけを並べてもコタツ記事になりますので、

筆者が、実際に同一勾留に「再度の準抗告」をしてみました。

勾留で2回です。(勾留1回、勾留延長1回ではありません。)

勾留で2回+勾留延長で1回の合計3回の準抗告をしました。

(勾留で①②③の3回準抗告をしており、②③は再度の準抗告です。)


【時系列】

4/24 裁判所・勾留決定。

4/25 国選弁護人選任。勾留当日中に警察署で接見。

4/26 弁護人・初回の準抗告申立て。勾留理由開示を請求。

4/26 裁判所(第2刑事部)・初回の準抗告を棄却決定。

4/30 勾留理由開示期日(被疑者が罪証隠滅をしないことを法廷供述で誓約)

4/30 弁護人・再度の準抗告申立て。勾留理由開示期日を受け内容を加筆変更。

5/01 裁判所(第5刑事部)再度の準抗告を棄却決定

「再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」

5/02 再度の準抗告について、最高裁判所へ特別抗告

  ︙

5/02 裁判所・勾留延長決定。

5/07 弁護人・勾留&勾留延長の準抗告申立て。勾留(延長)理由開示を請求。

   準抗告申立書には、新たに親族の「身柄引受書」を添付。

5/07 裁判所(第3刑事部)勾留延長の準抗告を棄却決定(内容審査あり)。

勾留(原決定)への再度の準抗告を棄却決定

「再度の準抗告申立てとして、不適法である。」

5/08 裁判所・勾留(延長)理由開示請求を却下。

「同一の勾留に対する再度の勾留理由開示請求に該当するため」

5/10 最高裁判所・特別抗告を棄却決定

【4/30地方裁判所(第5刑事部)が「再度の準抗告」を「不適法」棄却した理由】

 一件記録によれば、本件勾留の裁判については、令和6年4月26日、同一申立人から横浜地方裁判所に対し、本件と同一の趣旨の裁判を求める準抗告の申立てがなされ、同裁判所は、同日、同準抗告申立てを棄却する決定をしたことが明らかである。そうすると、本件準抗告の申立ては、再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない

 なお、本件申立てにおいて新たに弁護人が主張する事情は、前記判断に影響を及ぼすものではない

 よって刑事訴訟法432条、426条1項により、主文のとおり決定する。

裁判所は「(再度の準抗告)の理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」として内容の審査をしないような態度を取りますが、一方で「なお、本件申立てにおいて新たに弁護人が主張する事情は、前記判断に影響を及ぼすものではない。」として、勾留理由開示期日における「事情」の内容の審査をしたうえで、初回の準抗告の棄却「判断に影響を及ぼすものではない。」としています。

弁護人の立場からすれば、「そうすると」から「なお、」までは、余事記載ではないか?と感じます。裁判所が、結局、「新たに弁護人が主張する事情」の内容審査をするのであれば、「再度の準抗告」云々の判断は不必要な余事記載です。


筆者は、「準抗告」の棄却決定自体は(内容の審査があれば)やむを得ないとしても、棄却理由の「再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」は間違いであり、内容の審査をするべきであると考え、最高裁に特別抗告しました。

(GW中に、横浜地方裁判所と最高裁の裁判官にはご負担をおかけしました。)

特別抗告の理由の概要は、以下の通りです。

【憲法違反の理由:憲法31条・適正手続違反、刑事訴訟法にない準抗告回数制限】

【憲法解釈違反の理由:憲法34条・勾留理由開示後、再度の準抗告の制限】

【最高裁判例との相反:再度の準抗告が不適法とされた最高裁判例は存在しない】


初回の準抗告では「被害者への働き掛け」が危惧されたため、
勾留理由開示期日では、被疑者が自白のうえ、
被害者への接触・電話等を一切しない誓約をしました。
しかし、棄却理由では、被疑者法廷供述が一切評価されませんでした。
「勾留理由開示は、被疑者その他の関係者が、勾留取消の請求や勾留に対する準抗告を行うための基礎となる情報を得る機会にもなり得る。」(リーガルクエスト刑事訴訟法)と解説されますが、これでは、勾留理由開示請求(憲法34条)をした意味がありません。
裁判所は、憲法が定める「勾留理由開示の権利」を軽視しているように見えます。

【5/10最高裁判所が特別抗告を棄却(具体的理由なし)】

令和6年5月10日、最高裁判所第二小法廷の特別抗告棄却決定。

最高裁が判例を引用しないテンプレ回答をしたため、
弁護人には、棄却の具体的理由がわかりません。
「再度の準抗告」の棄却に対する特別抗告が、最高裁に棄却された一例として。

※「再度の準抗告」が一般に「不適法」になるわけではありません。
あくまで、裁判所に「同一理由」と判断された場合の帰結に過ぎません。
そして、「同一理由」にあたるかどうかは、弁護人には判断がつきません。

初回の準抗告と再度の準抗告の間に「勾留理由開示期日を実施した」、
被疑者が法廷で「自白した」「誓約した」という新たな事情をもっても、
裁判所が「被害者への働き掛け」のリスクは同じと判断したかはわからず、
結論としては、準抗告棄却の「判断に影響を及ぼさない」と断じています。

【5/8地方裁判所(第3刑事部)が予備的「再度の準抗告」を「不適法」棄却した理由】

1 本件準抗告の趣意は、主位的に、勾留期間を延長するやむを得ない事由はないから、原判決を取り消し、本件勾留延長請求を却下する旨の裁判を、予備的に勾留の理由も必要性もないから、原判決を取り消し、本件勾留請求を却下する旨の裁判を求めるというものである。

2(事案のため省略)

3 本件事案の内容・性質、捜査の進捗状況、被疑者の供述内容等に照らせば、参考人から事情を聴取した上で、更に被疑者の取調べを行わなければ、被疑者に対する適正な処分を決することができないと認められる。そして、前記捜査及び処分の決定に要する日数を考えると、勾留期間を10日間延長するやむを得ない事由があると認めた原裁判は相当である。

 なお、本件勾留の裁判については、令和6年4月26日、弁護人から横浜地方裁判所に対し、本件予備的請求と同一の趣旨の裁判を求める準抗告の申立てがなされ、同裁判所は、同日、同準抗告申立てを棄却する決定をしたことが認められ、再度の準抗告申立てとして、不適法である(このことは、当庁令和6年(む)第・・・・号勾留の裁判に対する準抗告申立事件でも既に判断されている。)。なお、被疑者の[親族]が身柄引受書を提出したことなどの弁護人が主張する新たな事情を踏まえても、勾留の理由及び必要性が認められる。

4 よって刑事訴訟法432条、426条1項により、主文のとおり決定する。

裁判所は予備的な再度の準抗告について、まず、「再度の準抗告申立てとして、不適法である」として内容の審査をしないような態度を取りますが、一方で「なお、被疑者の[親族]が身柄引受書を提出したことなどの弁護人が主張する新たな事情を踏まえても、勾留の理由及び必要性が認められる。」として、勾留延長後における「新たな事情」の内容の審査をしたうえで、「弁護人が主張する新たな事情を踏まえても、勾留の理由及び必要性が認められる。」としています。

弁護人の立場からすれば、「再度の準抗告申立てとして、不適法である」は、余事記載ではないか?と感じます。裁判所が、結局、「弁護人が主張する新たな事情を踏まえて」内容審査をするのであれば、「再度の準抗告」云々の判断は不必要な余事記載です。



同一被疑者の再逮捕事案で、同じパターンの再度の準抗告をした結果

⇨不適法棄却。


【時系列】

5/15 裁判所・勾留決定。

5/15 国選弁護人選任。勾留当日中に警察署で接見。

5/16 弁護人・初回の準抗告申立て。勾留理由開示を請求。

5/16 裁判所(第2刑事部)・初回の準抗告を棄却決定。

5/20 勾留理由開示期日(被疑者が罪証隠滅をしないことを法廷供述で誓約)

5/20 弁護人・再度の準抗告申立て。勾留理由開示期日を受け内容を加筆変更。

5/21 裁判所(第5刑事部)再度の準抗告を棄却決定

「再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」

5/24 裁判所・勾留延長決定。検察官10日請求中「7日間」のみ延長を認める

5/28 弁護人・勾留&勾留延長の準抗告申立て。勾留(延長)理由開示を請求。

5/28 裁判所(第6刑事部)勾留延長の準抗告を棄却決定(内容審査あり)。

勾留(原決定)への再度の準抗告を棄却決定

次に、勾留の裁判についてみるに、本件申立ては、実質的にみて同一の裁判に対する同一の理由による再度の準抗告の申立てであり不適法というほかないが、その点を措いても、本件事案の性質・内容及び本件に至る経過、被疑者と被害者の各供述状況並びに両名の関係性等に照らすと、被疑者が被害者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められ、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることも否定できず、勾留の必要性もあると認められる。

5/28 裁判所・勾留(延長)理由開示請求を却下。

「同一の勾留に対する再度の勾留理由開示請求に該当するため」

5/29 被害者との示談成立

5/29 弁護人・勾留&勾留延長の準抗告申立て。(勾留4回目・勾留延長2回目)

5/30 検察官が被疑者を釈放。(満期前に任意で釈放)

5/30 裁判所(第6刑事部)再度の準抗告を棄却決定

「当審の事実取調べによれば、被疑者は令和6年5月30日午前9時5x分に釈放されたことが認められる。そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件準抗告はいずれも申立ての利益を失ったというほかなく、棄却を免れない。」※なお、「再度の準抗告」や「不適法」という理由はありませんでした。


【5/21地方裁判所(第5刑事部)が「再度の準抗告」を「不適法」棄却した理由】

 一件記録によれば、本件勾留の裁判については、令和6年5月16日、同一申立人から横浜地方裁判所に対し、本件と同一の趣旨の裁判を求める準抗告の申立てがなされ、同裁判所は、同日、同準抗告申立てを棄却する決定をしたことが明らかである。そうすると、本件準抗告の申立ては、再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない

 なお、本件申立てにおいて新たに弁護人が主張する事情は、前記判断に影響を及ぼすものではない

 よって刑事訴訟法432条、426条1項により、主文のとおり決定する。


【筆者コメント】
再度の準抗告は、偶然、第5刑事部にあたりました。
一言一句同じ理由ですので、2回目の準抗告のテンプレになっているのでしょう。
なお、再度の準抗告の際には、以下の主張をしており、裁判体は読んでいるはずです。

■再度の準抗告が認められるべきこと
横浜地方裁判所は、別件被疑事実について再度の準抗告を不適法棄却した。
しかし、刑事訴訟法上、再度の準抗告を禁止し、または、回数の制限を設ける規定は存在しない。
初回の準抗告のあとに、勾留理由開示請求を行い、法廷供述をすれば、当然に事情変更が認められ、2回目の準抗告を「不適法な再度の準抗告」と扱うべきではない。
「再度の準抗告」を「不適法」と断じることは、憲法上の勾留理由開示制度そのものを否定することであり、慎むべきである。
仮に、本件準抗告を棄却する場合にも、同一理由(コピペ)の準抗告かについて、内容審査を伴うのであるから、「不適法」と判断することは論理破綻である。
裁判所の再度の準抗告に関する理解に疑義があるため、付言する次第である。


【5/28地方裁判所(第6刑事部)が予備的「再度の準抗告」を「不適法」棄却した理由】

1 申立ての趣旨及び理由
 本件準抗告の趣旨及び理由は、主位的に、勾留期間延長の裁判に対し、被疑者には刑訴法208条2項所定のやむを得ない事由がないのに本件勾留期間を7日間延長した原裁判は誤っているから、原裁判を取り消した上、本件勾留期間延長請求を却下する旨の裁判を、予備的に、勾留の裁判に対し、被疑者には犯罪の嫌疑がなく、勾留の理由も必要もないから、被疑者を勾留した原裁判を取り消した上、本件勾留請求を却下する旨の裁判を、それぞれ求めるものである(なお、弁護人は、勾留の裁判に対して同月16 日及び同月20 日にそれぞれ準抗告の申立てをしており、そのいずれについても棄却決定がされている。) 。

2 当裁判所の判断
 まず、勾留期間延長の裁判についてみるに、本件事案の性質・内容及び本件に至る経過、被疑者の供述状況等に照らせば、本件の動機・経緯等の解明に加え、被害者の処罰意思等の確認が適正な処分決定のために重要であり、そのためには被疑者について取調べや●●●●を実施するとともに、被害者等の取調べなどの所要の捜査を行う必要があるから、検察官による10日間の勾留期間延長請求に対し、7日間の限度でこれを認めた原裁判に誤りがあるとはいえない。
 次に、勾留の裁判についてみるに、本件申立ては、実質的にみて同一の裁判に対する同一の理由による再度の準抗告の申立てであり不適法というほかないが、その点を措いても、本件事案の性質・内容及び本件に至る経過、被疑者と被害者の各供述状況並びに両名の関係性等に照らすと、被疑者が被害者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められ、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることも否定できず、勾留の必要性もあると認められる。 なお、弁護人は被疑者の健康状態が悪化しており、長期間の勾留に耐えられない旨主張するが、当審の事実取調べによれば、被疑者に対して留置施設の嘱託医による診察が行われ、その健康状態に特段の指摘がなされていないこと等に照らせば、弁護人の主張は採用することができない。 加えて、弁護人は、本件では・・・・罪は成立しないとも主張するが、犯罪の嫌疑がないことを理由として準抗告を申し立てることはできず(刑訴法429条2項、420条3項) 、この点を裁判所の職権発動を求める趣旨と解しても、本件において原裁判を取り消すべき事情は認めちれない。
 よって、本件準抗告はいずれも理由がないから、刑訴法432条、426条1項により、主文のとおり決定する。

【筆者コメント】
「まず」の段落が、勾留延長への初回の準抗告です。
「次に」の段落が、勾留への再度の準抗告(3回目の準抗告)です。
勾留の裁判についてみるに、本件申立ては、実質的にみて同一の裁判に対する同一の理由による再度の準抗告の申立てであり不適法というほかないが…」のあとで
「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」「被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある」「勾留の必要性もある」「被疑者の健康状態(に問題ない)」「嫌疑あり(職権発動しない)」と、内容審査をしています。
「まず」の勾留延長の準抗告(適法)部分よりも、
「次に」の勾留の準抗告(不適法)部分の理由の方が長く書かれました。


【5/30地方裁判所(第6刑事部)が主位的&予備的「再度の準抗告」を「申立ての利益を失った」と棄却した理由】

1 申立ての趣旨及び理由
 本件準抗告の趣旨及び理由は、主位的に、勾留期間延長の裁判に対し、被疑者には刑訴法208条2項所定のやむを得ない事由がないのに本件勾留期間を7日間延長した原裁判は誤っているから、原裁判を取り消した上、本件勾留期間延長請求を却下する旨の裁判を、予備的に、勾留の裁判に対し、被疑者には犯罪の嫌疑がなく、勾留の理由も必要もないから、被疑者を勾留した原裁判を取り消した上、本件勾留請求を却下する旨の裁判を、それぞれ求めるものである 。

2 当裁判所の判断
 当審の事実取調べによれば、被疑者は令和6年5月30日午前9時5x分に釈放されたことが認められる。そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件準抗告はいずれも申立ての利益を失ったというほかなく、棄却を免れない。
 よって、本件準抗告はいずれも理由がないから、刑訴法432条、426条1項により、主文のとおり決定する。

【筆者コメント】
釈放前に準抗告をして、検察官が翌日に釈放したところ、
裁判所は、「申立ての利益を失った」として、棄却決定をしました。
ここでは、「再度の準抗告」という理由付けはされませんでした。

5/28等のように「再度の準抗告」(手段)が「不適法」であれば、
ここでも、同じ理由付けをしたうえで、
申立ての利益付言をするべきところ、そうでない。

示談成立後の「再度の準抗告」は「適法」ということか。
それとも(釈放による)「申立ての利益」の判断が先で、
「再度の準抗告」の判断が後だから、判断せず、なのか。
裁判所の整理は、よくわかりません。


5.「再度の準抗告」の論理不整合

【弁護人の雑感:理由付けの論理不整合】

「再度の準抗告申立て⇨不適法」という

裁判所のテンプレ理由は、わかりにくいです。

裁判所は、同一理由で「不適法」かを判断するために

「再度の準抗告」の「新たな事情」の内容審査をします。

刑事訴訟法に準抗告の回数制限が書かれていない以上、

「不適法」≒刑事訴訟法等違反と決めつけられません。

裁判所は、最高裁判例の裏付けもありませんから、

「不適法」と強い言葉を使わずとも、端的に、

新事情をもっても、初回準抗告の棄却判断に影響がない旨を

判断すれば、理由付けとして必要かつ十分であると感じたところです。


【循環論法の疑い】

裁判所「再度の準抗告」の事案で不適法だ

理由について判断するまでもなく棄却を免れない。(不適法棄却の結論先行

(1)初回と「同一理由」の準抗告(コピペ準抗告等)

⇨「再度の準抗告」として不適法(棄却)。

(2)「新たに弁護人が主張する事情」が、初回準抗告棄却判断に影響を与えない。

⇨棄却 ※新たに弁護人が主張した事情の「理由について判断」して棄却

(3)「新たに弁護人が主張する事情」が、初回準抗告棄却判断に影響を与えた。

⇨認容 ※新たに弁護人が主張した事情の「理由について判断」して認容

上記(2)(3)では、「理由について判断するまでもなく棄却」をすると言いつつ、

結局、「理由について判断」しています。理由付けに循環論法に近い混乱を感じます。


裁判所の想定する「不適法」「棄却」にするべき「再度の準抗告」は、

(1)初回準抗告と「同一理由」の再度の準抗告申立書が提出された場合のみです。

(2)(3)完全に「同一理由」ではないケースでは、内容審査をする以上、

(2)を含めて「不適法」「棄却」という理由付けは論理的に不正確と考えます。


裁判所の起案は、同一理由か検討をしたうえで、

⇨(1)申立書がコピペ同一理由⇨「不適法」で「棄却」。

⇨(2)(3)別の理由⇨新たな事情を審査⇨結論:認容or適法に棄却。

とすることが、論理的に正しい理由付けであると考えます。


6.「勾留延長理由開示請求」を申立てた結果

同じ事件において、勾留延長理由開示請求もしました。

・同一勾留への「再度の勾留理由開示請求」ではありません。

勾留で1回+勾留延長で1回の合計2回の勾留理由開示請求をしました。


勾留延長理由開示は記事を分離しました。

被疑者段階の勾留延長理由開示請求は「再度の勾留理由開示請求」として却下される。しかし却下には憲法34条違反の疑いがある


横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇


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