被疑者段階の勾留延長理由開示請求は「再度の勾留理由開示請求」として却下される。しかし却下には憲法34条違反の疑いがある©️2024川口崇弁護士

同一の勾留決定への「再度の準抗告」への回数制限はない。しかし内容審査のうえで同一理由だと「不適法」棄却される可能性がある。

本稿は、上記記事より、分離しました。


1.「勾留延長理由開示請求」を申立てた結果

被疑者段階で勾留理由開示請求後に、勾留延長理由開示請求をしました。

・同一勾留への「再度の勾留理由開示請求」ではありません。

勾留で1回+勾留延長で1回の合計2回の勾留理由開示請求をしました。

【時系列】

4/24 勾留決定。

4/25 国選弁護人選任。勾留当日中に警察署で接見。

4/26 弁護人・初回の準抗告申立て。勾留理由開示を請求

4/26 裁判所(第2刑事部)・初回の準抗告を棄却決定。

4/30 勾留理由開示期日(被疑者が罪証隠滅をしないことを法廷供述で誓約)

4/30 弁護人・再度の準抗告申立て。勾留理由開示期日を受け内容を加筆変更。

5/01 裁判所(第5刑事部)再度の準抗告を棄却決定。

「再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」

5/02 再度の準抗告について、最高裁判所へ特別抗告。

  ︙

5/02 裁判所・勾留延長決定。

5/07 弁護人・勾留延長の準抗告申立て。勾留(延長)理由開示を請求

   準抗告申立書には、新たに親族の「身柄引受書」を添付。

5/07 裁判所(第3刑事部)勾留延長の準抗告を棄却決定(内容審査あり)。

勾留(原決定)への再度の準抗告を棄却決定。

「再度の準抗告申立てとして、不適法である。」

5/08 裁判所・勾留(延長)理由開示請求を却下

「同一の勾留に対する再度の勾留理由開示請求に該当するため」


同一被疑者の再逮捕事案で、同じパターンの勾留延長理由開示請求をした結果


【時系列】

5/15 裁判所・勾留決定。

5/15 国選弁護人選任。勾留当日中に警察署で接見。

5/16 弁護人・初回の準抗告申立て。勾留理由開示を請求。

5/16 裁判所(第2刑事部)・初回の準抗告を棄却決定。

5/20 勾留理由開示期日(被疑者が罪証隠滅をしないことを法廷供述で誓約)

5/20 弁護人・再度の準抗告申立て。勾留理由開示期日を受け内容を加筆変更。

5/21 裁判所(第5刑事部)再度の準抗告を棄却決定。

「再度の準抗告申立てとして不適法であるから、その理由について判断するまでもなく棄却を免れない。」

5/24 裁判所・勾留延長決定。検察官10日請求中「7日間」のみ延長を認める。

5/28 弁護人・勾留&勾留延長の準抗告申立て。勾留(延長)理由開示を請求。

5/28 裁判所(第6刑事部)勾留延長の準抗告を棄却決定(内容審査あり)。

勾留(原決定)への再度の準抗告を棄却決定。

次に、勾留の裁判についてみるに、本件申立ては、実質的にみて同一の裁判に対する同一の理由による再度の準抗告の申立てであり不適法というほかないが、その点を措いても、本件事案の性質・内容及び本件に至る経過、被疑者と被害者の各供述状況並びに両名の関係性等に照らすと、被疑者が被害者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められ、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることも否定できず、勾留の必要性もあると認められる。

5/28 裁判所・勾留(延長)理由開示請求を却下。

「同一の勾留に対する再度の勾留理由開示請求に該当するため」

5/29 被害者との示談成立。

5/29 弁護人・勾留&勾留延長の準抗告申立て。(勾留4回目・勾留延長2回目)

5/30 検察官が被疑者を釈放。(満期前に任意で釈放)

5/30 裁判所(第6刑事部)再度の準抗告を棄却決定。

「当審の事実取調べによれば、被疑者は令和6年5月30日午前9時5x分に釈放されたことが認められる。そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件準抗告はいずれも申立ての利益を失ったというほかなく、棄却を免れない。」※なお、「再度の準抗告」や「不適法」という理由はありませんでした。


2.被疑者段階の勾留延長理由開示請求を認めないと萎縮効果を生む

刑事弁護ビギナーズの記述のうち、「勾留理由開示請求が、1つの勾留に対して1回しか認められない」の部分は正しい。と実証されました。

しかし、筆者は、勾留延長の理由を開示しない実務には納得がいきません。

「勾留」と「勾留延長」には、条文上要件の明確な差異があります。

「勾留」:法207条1項・法60条1項・87条1項⇨勾留の理由&必要性

「勾留延長」:「勾留要件↑」+法208条2項⇨勾留延長のやむを得ない事由 ※「裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。」(刑事訴訟法208条2項

国賠の最高裁判例:「刑訴第二〇八条第二項所定の「やむを得ない事由があると認めるとき」とは、事件の複雑困難(被疑者もしくは被疑事実が多数であるほか、計算複雑被疑者関係人らの供述その他の証拠のくいちがいが少なからず、あるいは取調を必要と見込まれる関係人、証拠物等が多数の場合等)、あるいは証拠蒐集の遅延もしくは困難(重要と思料される参考人の病気、旅行、所在不明もしくは鑑定等に多くの日時を要すること)等により、勾留期間を延長して更に取調をしなければ起訴、不起訴の決定をすることが困難な場合をいうものと解すべきである。昭和32(オ)第682号、昭和37年7月3日最高裁判所第三小法廷、民集第16巻7号1408頁

そうすると、被疑者は「裁判官が何をもって、やむを得ない事由があると判断して、勾留延長をしたのか?」について、勾留延長理由開示期日で説明を受ける憲法上の権利があるはずです。

勾留&勾留延長で合計1回しか勾留理由開示が認められないとすれば、勾留延長理由(やむを得ない事由)を知りたい被疑者は、勾留期間中(最初の10日間)に、勾留理由開示を思い留まらなければならない理不尽を生み、勾留理由開示請求の萎縮効果を生じます。

勾留延長への理由開示は「再度の勾留理由開示請求」
扱いで却下されてしまう不思議。

勾留・勾留延長の準抗告各1回が「初回の準抗告」であり「再度の準抗告」にはならないこととパラレルに考えれば、

勾留・勾留延長の勾留理由開示各1回も「初回の理由開示」であり「再度の勾留理由」にならず、請求を認めることが憲法34条後段刑事訴訟法82条に適合して自然です。

勾留延長への準抗告は「初回の準抗告」(適法)

現状では、A勾留理由開示orB勾留延長理由開示を「選択しろ」という運用です。

A勾留理由開示を選択⇨勾留理由開示を受けて勾留決定に準抗告をできる。ただし、勾留延長理由(やむを得ない事由)の開示を受けられないから、勾留延長への準抗告は、「やむを得ない事由」を当てずっぽうで準抗告をするしかない。

B勾留延長理由開示を選択⇨勾留理由(必要性)の開示を受けられないから、勾留への準抗告は、「必要性」を当てずっぽうで準抗告するしかない。その後、勾留延長理由(やむを得ない事由)の開示を受けて、勾留延長への準抗告をすることができる。もっとも、検察官が、勾留延長請求をするかは、ブラックボックス。勾留延長されないのに、無駄に勾留理由開示を萎縮してしまう場合もあり得る。


法82条2項が、被疑者本人の請求以外に「勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。」と複数の請求権者を認めることから、被疑者の請求+弁護人の請求などの場合を想定して、法86条が「同一の勾留について第八十二条の請求が二以上ある場合」の却下を定めたと読むことが妥当だ(被疑者段階の勾留延長理由開示にはあたらない)と感じます。

被疑者段階の勾留理由開示の回数制限は、実務の運用に問題があると考えます。


3.被疑者2回・被告人2回の勾留理由開示・勾留延長理由開示を認めるべき

無限の勾留理由開示を認めろ、とは言いません。

1.被疑者勾留の理由開示請求(10日)

2.被疑者勾留延長の理由開示請求(最大10日延長)

3.被告人勾留の理由開示請求(2ヶ月)

4.被告人勾留延長の理由開示請求(1ヶ月延長毎)

せめてこの4回は、理由開示を認めるべきです。

なぜなら、すべて勾留・延長の要件が異なるからです。

1.被疑者勾留(10日)

「勾留の理由&必要性」(法207条1項・法60条1項・法87条1項)

2.被疑者勾留延長(最大10日延長)

「やむを得ない事由があると認めるとき」(上記1+法208条2項)

3.被告人勾留(2ヶ月)

起訴後の「勾留の理由&必要性」(法60条1項・法87条1項)

4.被告人勾留延長(1ヶ月延長毎)

起訴後の「特に継続の必要がある場合」(法60条2項)


裁判所が勾留理由開示期日を開廷することを

厄介な「コスト」だと感じるのであれば、

検察官の勾留請求を却下すれば、ウィン・ウィンです。

被告人を早期に保釈決定すれば、ウィンウィンです。

裁判官が人間を拘束することの重みを理解していれば、

せめて、被疑者・被告人に勾留理由を説明する責任を果たすべきです。


4.最高裁判例の射程が被疑者勾留の勾留延長理由開示には及ばないこと

最高裁ウェブページで過去の判例を検索すると、

起訴後の被告人段階において、勾留理由開示請求は、

「同一勾留について」「1回に限り許される」とされます。

一方、被疑者段階における却下事案は見当たりませんでした


昭和29年(す)第303号、昭和29年8月5日第一小法廷決定、刑集第8巻8号1237頁(公務執行妨害被告事件、傷害被告事件)

「勾留理由開示の請求は、同一勾留については勾留の開始せられた当該裁判所において一回に限り許されるものと解すべきである。本件記録によれば、被告人に対する勾留は第一審以来継続しているのであるから、当審において申立てられた本件勾留理由開示の請求は、許されないものといわねばならない。」


昭和29年(す)第316号、昭和29年9月7日第三小法廷決定、刑集第8巻9号1459頁(放火被告事件)

「勾留理由開示の請求は、同一勾留については、勾留の開始せられた当該裁判所において一回に限り許されるものと解すべきである。本件記録によれば、被告人に対する勾留は、第一審において開始せられたものが継続しているのであるから、当審において申立てられた本件勾留理由開示の請求は、許されないものといわねばならない。」


昭和30年(す)第333号、昭和30年10月5日第二小法廷決定、集刑第109号199頁(窃盗被告事件)

「勾留理由開示の請求は、同一勾留については、勾留の開始せられた当該裁判所において、一回に限り許されるものと解すべきである。本件記録によれば被告人に対する勾留は、第一審以来継続しているのであるから、当審において申立てられた本件勾留理由開始の請求は、許されないものといわねばならない。」


昭和39年(す)第81号、昭和39年4月28日第三小法廷決定、集刑第151号131頁(強姦致傷被告事件)

「勾留理由開示の請求は、同一勾留については、勾留の開始せられた当該裁判所において一回にかぎり許されるものと解すべきところ(昭和二九年(す)第三〇三号同二九年八月五日第一小法廷決定参照)、本件記録によれば、右被告人に対する勾留は、第一審以来継続しているものであるから、当審において申し立てられた本件請求は、許されないものといわなければならない。」


昭和44年(す)第85号、 昭和44年4月9日第二小法廷決定、集刑第171号583頁(窃盗被告事件)

「勾留理由開示の請求は、同一勾留については、勾留の開始せられた当該裁判所において一回にかぎり許されるものと解すべきところ(昭和二九年(す)第三〇三号、同年八月五日第一小法廷決定刑集八巻八号一二三七頁同年(す)第三一六号、同年九月七日第三小法廷決定、刑集八巻九号一四五九頁参照。)、本件記録によれば、右被告人に対する勾留は、第一審以来継続しているものであるから、当審において申し立てられた本件請求は、許されないものといわなければならない。」



「本件で問題となつている勾留の理由の開示も応急措置法第六条第二項の規定によるものといわなければな<要旨>らない。ところで、右応急措置法第六条第二項所定のいわゆる勾留の理由の開示は、被告人(又は被疑者)が</要旨>いかなる理由によつて勾留されたかを開示するものであるから、同一の勾留においては一回の開示があれば足りるものであつて、その後において再度その開示の請求があつても、裁判所(又は裁判官)としてはこれに応ずべきものでないと解するのを相当とする。」
※判例は、起訴後の被告人の勾留延長(刑事訴訟法60条2項)後の勾留理由開示請求(2回目)への却下判断です。


【筆者コメント】

被告人の勾留延長:「勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。」(法60条2項)

被疑者の勾留延長:「裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。」(法208条2項)

被疑者の「やむを得ない事由」(法208条2項)は、

被告人の「特に継続の必要がある場合」(法60条2項)よりも、厳しい基準です。

さらに、被疑者と被告人では、勾留の目的が違います。

被疑者では、起訴・不起訴への追加捜査を見据えますが、

被告人では、権利保釈を認め、捜査機関として身柄拘束をするメリットは限られます。

被告人勾留延長に関する最高裁判例の射程が、被疑者勾留延長に及ばない可能性はあります。


5.勾留延長理由開示請求はメモ書きで「却下」される

2回目の「勾留(延長)理由開示請求」は
「同一の勾留に対する再度の勾留理由開示請求に該当するため」
という理由(手書き)で「却下」されました。
請求書の余白部分に「メモ書きで却下」でした。
規則86条の2で送達不要のためでしょうか。


「メモ書きで却下」の記載場所は、裁判官の趣味でしょうか。


今回、筆者は却下に対して不服申立て・準抗告をしませんでした。今後の課題とします。


なお、勾留理由開示請求の却下は「勾留~に関する裁判」(法429条1項2号)に該当して、準抗告をすることができる旨の最高裁決定があります。

「裁判官が勾留理由開示の請求を却下した裁判に不服がある者は、刑訴法四二九条一項二号により、その取消または変更を請求することができる。」

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51032

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=59724


【勾留理由開示の関連条文】

(憲法)

第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

(刑事訴訟法)

第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。

② 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。

③ 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。


第八十三条 勾留の理由の開示は、公開の法廷でこれをしなければならない。

② 法廷は、裁判官及び裁判所書記が列席してこれを開く。

③ 被告人及びその弁護人が出頭しないときは、開廷することはできない。但し、被告人の出頭については、被告人が病気その他やむを得ない事由によつて出頭することができず且つ被告人に異議がないとき、弁護人の出頭については、被告人に異議がないときは、この限りでない。


第八十四条 法廷においては、裁判長は、勾留の理由を告げなければならない。

② 検察官又は被告人及び弁護人並びにこれらの者以外の請求者は、意見を述べることができる。但し、裁判長は、相当と認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を差し出すべきことを命ずることができる。


第八十五条 勾留の理由の開示は、合議体の構成員にこれをさせることができる。


第八十六条 同一の勾留について第八十二条の請求が二以上ある場合には、勾留の理由の開示は、最初の請求についてこれを行う。その他の請求は、勾留の理由の開示が終つた後、決定でこれを却下しなければならない。


(刑事訴訟規則)

(開示の請求の却下決定の送達)

第八十六条の二

勾留の理由の開示の請求を却下する決定は、これを送達することを要しない。


横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇


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