1.接見等禁止一部解除申立書の書式(弁護人用)
最も簡易に利用できる接見等禁止一部解除申立書を公開します。
2.接見等禁止一部解除申立書の書式(使い方)
必要事項を埋めて、押印のうえ提出してください。
第2 申立の理由
1 被疑者の家族を含めて接見等禁止を付した原裁判は不当である。
2 被疑者の家族は、被疑事実に関与しておらず、罪証隠滅のおそれは皆無である。
3 被疑者と家族との面会には、警察官が同席して記録をしており、このような中で、被疑者が、家族を通じて罪証隠滅を試みることは不可能である。
筆者は、A4一枚の申立書で、三行の理由により
何回も接見等禁止解除の決定・職権発動を受けています。
たった三行の理由でも、家族の接見等禁止は解除されます。
「第2 申立の理由」を適宜追加しても良いです。
ただし、長文を書くほど認容されるわけではありません。
特に、被疑者段階では、弁護人は証拠を見られません。
「申立の理由」は、弁護人の推測となり、
実際に証拠を見ている裁判官に対して、
証拠関係を説得的に論じることは難しいです。
たとえば、家族は被疑事実の共犯者ではないが
証拠上で関係者になっている場合があります。
弁護人は理由を悶々と考えるよりも、早期の提出を優先するべきです。
接見等禁止一部解除は「提出してダメなときはダメ」と割り切ることも必要です。
この点、日弁連では(一部解除申立の場合でも)
「接見等禁止の必要がないことを詳細に主張」しろ!と解説します。
しかし、筆者は「詳細な主張」を求める姿勢は有害だと考えます。
他方、無条件の解除は難しいが条件付きであれば解除される可能性がある場合や、何度も繰り返し解除を求める場合には一部解除申立を選択することも有効です。もちろん、この場合でも事後的な事由を含め、接見等禁止の必要がないことを詳細に主張する必要があります。先行して準抗告が棄却されている場合には、決定内容を分析し裁判所が何を気にしているのかを把握したうえで必要な手当を行うと、より一部解除の実効性を上げることができます。
※日本弁護士連合会接見交通権確立実行委員会編の
接見交通権マニュアル第24版 (80ページ)では、
特に、接見等禁止の一部解除が求められる、
被疑者段階では、ともかくスピード命です。
「詳細な主張」を妄想で書く作業を捨てて、
「3行の理由」で良いから、以下に述べる
同時提出をして、解除の可能性を上げるべきです。
3.解除申立書は「準抗告」と「職権発動」を同時に出す~接禁解除フォーミュラ~
筆者は「準抗告申立書」と「職権発動申立書」の
これを「接禁解除フォーミュラ」と呼称します。
一般に「準抗告」か「職権発動」のどちらかを先に行い、
認められなかった場合に、もう一方を申し立てるよう助言されます。
・日弁連の見解
なお、接見等禁止に対し一部解除申立てのみを続けることは、接見禁止が原則であるかのような意識を定着させかねません。現に今や多くの裁判官は請求があれば念のために全面的に接見禁止を付しているといっても過言ではないようにも思われます。加えて、一部解除申立ては職権発動を促すものにすぎないので、裁判官が職権を発動しない場合は理由も明らかにされませんし、職権不発動に対して更に争うこともできません。抗告(準抗告を含む。以下同様)に対しては裁判所が理由を示すため、仮に棄却されたとしてもその後の一部解除申立ての理由のヒントになるというメリットもありますので、抗告の申立てをすることを原則とすべきです。
※日本弁護士連合会接見交通権確立実行委員会編の
接見交通権マニュアル第24版 (79ページ)では、
①(準)抗告⇨棄却なら②職権発動の順番を推奨します。
・刑事弁護業界で有名な金岡繁裕弁護士のブログ
両者を比較して、準抗告を優先するべき理由を分析されています。
・刑事弁護ビギナーズでは、
①準抗告⇨棄却なら②職権発動の順番を推奨します。
「弁護人は、接見等禁止決定に対して、
準抗告や抗告を行い、これが認容されない場合であっても
さらに解除を申し立て、職権発動を求めるべきである。」
しかし、裁判所は、刑事手続きで「署名押印」or「記名押印」した
原本の提出を求めており、FAXでの申立書の提出が認められません。
(刑事訴訟規則第60条、同第60条の2第2項第2号)
原本提出は「①/②で2回」よりも「①&②で1回」が効率的です。
【早い】①準抗告&②職権発動「同時提出」
【遅い】①準抗告提出⇨棄却⇨⇨⇨②職権発動提出
後者では、無駄な時間がかかってしまいます。
一方の申立書が認容されて申立ての利益が失われたときには、
もう一方の申立書について、事後的に「取下書」を提出しています。
「取下書」の提出は適宜のタイミングで良く、急かされません。
筆者は、同時提出の場合に、
①職権発動の審査⇨②準抗告の審査
という順番で審査をするように依頼しています。
①職権発動が認容された連絡を受けて、
②準抗告審に後日「取下書」を提出しています。
(準抗告取下書の記載例)
上記被疑者・被告人の勾留に関する接見等禁止決定に対する準抗告を取下げます。
なお、原裁判官の職権発動により、接見等禁止が一部解除されたことで、弁護人の準抗告の利益がなくなったため、準抗告申立てを取下げする次第です。
裁判所は、①職権発動⇨②準抗告 が嬉しい(はず)です。
※J準抗告は、裁判体で審査が必要かつ決定書作成義務があるため、
まず職権発動でダメなら次に準抗告を提出してほしい。これが本音でしょう。
もっとも、接見等禁止解除の職権発動が認められない場合には、
書記官が「職権発動せずです。被疑者に伝えてください📞」と
電話回答するだけで、裁判官が職権発動をしない理由が全くわかりません。
準抗告では、認容・棄却の理由が書かれ、被疑者にも送達されます。
「準抗告」が「職権発動」の上位互換なのか?というと
「実はそうではない」ということが、実務での印象です。
「準抗告」は通らないけど「職権発動」は通ることがあります。
「職権発動」は通らないけど「準抗告」は通ることもあります。
裁判体が「準抗告ではなく職権発動でやれよ」というポリシーだと、
手段としての準抗告を嫌って棄却することがあります。理不尽です。
筆者は、準抗告を「~も踏まえると、本件の準抗告申立てに理由があるとは認め難く、他の手段によるべきものである。」という理由で棄却されたことがあります。(職権発動で認容されました。)
つまり、片方に留めず、認容まで両方を出す必要があります。
そうであれば、はじめから両方を同時提出することが、効率的です。
原本提出が必要ですから、同時提出(手渡し・郵送)が最適解です。
また「職権発動」を先に審査する場合に
すでに「準抗告」が同時提出されていると、
裁判官は「一部解除しないと準抗告審査か…」と感じますから、
裁判官に事実上の職権発動のプレッシャーをかけることができます。
(裁判官に内心を聞いたことはありませんが、
同僚裁判体に準抗告でご迷惑をおかけするわけにいかないから、
接見等禁止解除をするべき事案かを積極的に審査するはずです。)
弁護人は、以上の理由より、
「準抗告」「職権発動」の申立書を
同時に提出することが「最善弁護」です。
これを「接禁解除フォーミュラ」と呼称します。
準抗告と職権発動の同時提出の方法は、
筆者(川口崇弁護士)が、
早期性と効率性を重視した結果、編み出した最適解です。
※本稿・本ブログは、転載を認めております。
転載をする場合には、必ず出典URLを記してください。
4.「家族を含めた接見等禁止」という検察官と裁判官による人権侵害
■抽象的に(ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。)と記載するだけで改善できる!
被疑者(被告人)に共犯者がいる場合等に、
検察官は、勾留請求時に「接見等禁止」を請求して、
裁判官は、勾留決定時に「接見等禁止」の決定をします。
刑事訴訟法
第八十一条 裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。
日本の接見禁止決定率(勾留請求許可人員数に占める接見禁止決定数の割合)は、
2003年~2023年、最低31.1・最大46.2%(2023年)と増減してきました。
実は、検察官は勾留請求時に、裁判官は勾留決定時に、
家族を除いた第三者との接見等禁止をする権限があります。
・検察官は、家族を除いて「接見等禁止」の請求をできます。
・裁判官は、家族を除いて「接見等禁止」の決定をできます。
検察官が、きめ細やかな請求をすれば、
家族と面会できない被疑者は、絶対に減ります。
(ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。)と請求するだけです!
仮に、検察官が雑な請求をしても、
裁判官が、きめ細やかな決定をすれば、
家族と面会できない被疑者は、絶対に減ります。
(ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。)と決定するだけです!
実際に、家庭裁判所の裁判官が勾留審査をしている
少年事件では、父親と母親を除いた接見等禁止の決定が見られます。
裁判官が、少年の環境調整を意識していると感じます。
※家庭裁判所によれば、少年事件では、
検察官が「父母を除いた接見禁止を求める」パターンと、
裁判官が「父母を除いた接見禁止をする」パターンがあるようです。
後者の場合、疎明資料から父母を確認しており、
検察官に父母の追加資料を求めることもあるようです。
(成人事件の送付資料と法令上の差異があるわけではない模様。)
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最高裁の参考書式。 少年事件で「ただし、被疑者の親権者である父母との接見はこの限りでない。」としています。一般には「(~を除く。)」の前に、家族の氏名と生年月日を記載して特定しています。参考書式の記載で、成人事件でも「ただし、被疑者の父母、配偶者、子との接見はこの限りでない。」と記載して特定すれば、勾留決定段階でも両親を除外できます。
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問題は「接見等禁止」が付されるケースで、
検察官と裁判官が、被疑者・被告人に配慮することなく、
雑に「家族を含めた接見等禁止」をしていることです。
業界では「包括的接見禁止」と呼称されているようです。
検察官・裁判官にとっては、
勾留請求・勾留審査はルーティン業務であり、
接見等禁止への問題意識は低いのかもしれませんが、
被疑者・被告人にとって、とんでもない人権侵害です。
被疑者は、逮捕されて72時間以内に勾留されるまで、
家族とは会うことが許されません(一般面会ができません)。
勾留され、ようやく一般面会できる可能性が生まれます。
しかし、「家族を含めた接見等禁止」の場合には、一般面会さえ許されません。
もちろん、家族全員が嫌疑をかけられている事件では接見等禁止も仕方ありません。
しかし、家族が共犯者でなくとも、家族が共犯者とつながっていなくても、
検察官と裁判官は「家族を含めた接見等禁止」をしてしまうことがほとんどです。
厳しい言い方をすれば、検察官も裁判官も
家族を除くことが面倒くさいから
「家族を含めた接見等禁止」をしているに過ぎません。
法曹としての「良心」を忘れていませんか❓️
「すべて
裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(
憲法76条3項)
(検察官は)「
基本的人権を尊重し,刑事手続の適正を確保するとともに,刑事手続における裁判官及び弁護人の担う役割を十分理解しつつ,自らの職責を果たす。」(
検察の理念・第2項)
筆者は、司法修習生時代に、検察官の指導担当より、
「検察官が接見禁止をしたら、一部解除だしてね!」
という指導を受けた覚えがあります。
修習生当時は、そういうものか?と思っていました。
しかし、弁護人実務を経験した現在は、
検察官の人権意識の低さを感じさせられます。
(念の為。指導担当検察官は悪意はなく、
「接見等禁止一部解除」という手段さえ知らない
未熟な弁護人を生まないための
親切心から助言されたのだとは思います。)
国家権力をもって、身柄拘束(勾留)するだけでも、
被疑者・被告人にとっては、かなり重い負担になります。
勾留は原則10日、勾留延長で最大10日。
仕事を休まなければなりません。クビになるかもしれない。
せめて、家族と直接対話して、仕事等の連絡をしてもらい、
何とか仕事が回るように、クビにならないように調整したい。
雑な接見等禁止で妨害されては、たまったものじゃありません。
これに対して、検察官・裁判官から、
「事後(数日後)に一部解除されれば、家族に会えるから文句言うな」
「弁解録取で、面会したい家族を聞くのは手間だ」
「検察庁で家族の続柄を確認するのに時間がかかってしまう」
「裁判所は住民票をとれない。検察庁に住民票取得させる連絡が手間だ」
「令状審査に時間制限があるのに、住民票を請求させる時間がない」
「弁護人が、接見等禁止解除の申立してくれれば良いでしょ?」
といった反論(言い訳)がされるかもしれません。
しかし、接見禁止が必要だと考える場合でも、
せめて、検察官と裁判官は、親族を一部解除をすべきです。
⇨「ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。」と。
人定を現場の警察官に任せるだけで、確実に救われます。
筆者が、神奈川県警本部の担当部署に電話確認したところ、
抽象的に「被疑者の父母を除く」と指定されている場合に
留置管理係の警察官は、検察庁または刑事課に電話して父母の人定をしています。
「ただし、被疑者の父母、配偶者、子との接見はこの限りでない。」と決定して、
人定(家族の続柄確認)を留置管理係に任せれば、足ります。
※一般面会では、希望者が朝に電話で面会予約します。
留置管理係の警察官が人定をする十分な時間的余裕があります。
・検察官の弁解録取:
P「親族(両親や配偶者や子供)で面会したい人はいますか。」
A「父母、配偶者、子供」
P「それでは、親族を除いて接見等禁止請求しますね。」
・裁判官の勾留質問:
(検察官が、家族を含めて接見等禁止を請求したけど)
J「親族(両親や配偶者や子供)で面会したい人はいますか。」
A「父母、配偶者、子供」
J「それでは、親族を除いて接見等禁止決定しますね。」
やりとりに、各1分もかかりません。
■国選弁護人は接見等禁止解除について「無報酬」です
接見等禁止「解除」を国選弁護人任せにしてしまう、
検察官と裁判官の認識不足には、呆れてしまいます。
ぜひ、公設事務所で国選弁護人の経験を積んでいただきたい。
(四大やブティック系では、国選弁護人の経験ができません。)
国選弁護人の報酬について、
算定基準により一律に定められています。
国選弁護人は、接見等禁止解除の
準抗告と職権発動の申立てや認容決定に関して
一切の追加報酬が認められていません。0円です。
「接見等禁止」決定の有無に関わらず、報酬は同じです。
国選弁護人は、あくまで、
被疑者・被告人の権利擁護のために、
接見等禁止の一部解除を申し立てています。
ただでさえ「低廉だ!」と批判される報酬基準の中で、
国選弁護人に報酬なしに解除申請を委ねるべきではありません。
日弁連は、2007年に「接見禁止の解除決定」の成功報酬金1万円の改善要求しましたが、国は認めていません。
現状では、接見等禁止の解除の申し立ては「無報酬」のままです。
(筆者は、申し立て時点で一定の報酬を認めるべきだと考えます。)
(6)接見禁止の解除決定
→金1万円を加算すべきである。
○事件終結という意味での成果ではないことから、金1万円とした。
○一部解除を含む 例えば親族との接見ができるなどのメリットは大きい。
「弁護人に任せれば良いから家族を含めて接見等禁止する姿勢」は、
「国選弁護人の接見等禁止解除に経済的インセンティブが無いこと」を看過しています。
弁護人を接見禁止システムに組み込んで、一部解除を任せる姿勢の
検察官・裁判官は、公務員として無責任であり、人権を軽視しています。
⇨国選弁護人が就任することを前提に、勾留段階で予め一部解除すべきです。
■弁護人は、被疑者に接見等禁止決定がされたことを知らされない
実は、裁判所の令状係は、
「被疑者に接見等禁止決定がされている」ことを
指名通知書等(選任依頼)で弁護人に教えてくれません。
多くの(国選)弁護人は、
被疑者に初回接見をした際に聴取して、
接見等禁止決定されたことを知ります。
なお、令状係の電話番号を知っていれば、
接見前に電話確認をすることも可能ですが、
わざわざ聞く弁護人は少ないでしょう。
※私選弁護人は、家族とコンタクトしており、
接見等禁止決定を知らされることが多いでしょう。
一方、弁護人は、被告人段階では、
担当部より「接見等禁止決定」の書面を交付されます。
そもそも、この基本的な事実を、
検察官・裁判官は知らないかもしれません。
(当然、交付していると勘違いしていることでしょう。)
筆者は、接見等禁止がされているか被疑者に確認し、
わからなければ、警察署の留置管理係に聞いています。
接見等禁止の有無を快く教えていただけます。
※余談ですが、法曹として、これくらいの実務は知っていただきたいです。
・国選弁護人は被疑事実をFAXでもらえます。法テラスの指名通知FAXです。
・私選弁護人は被疑事実をFAXでもらえません…国選より手間です。(私選弁護人は勾留状謄本を令状係に請求しており時間がかかります。そのため、急ぎの場合には、検察庁に電話して聞きます。)
・弁護人は、勾留状謄本をもらえません(謄写せねば1/2/3号該当かわかりません)。
・弁護人は、被疑者段階で「接見等禁止決定」書をもらえません。
いかに裁判所が弁護人に情報提供をしていないか、
意見書を読むことで問題を理解することができます。
■国選弁護人が家族と連絡をする難しさ
国選弁護人は、被疑者の家族の
電話番号を調査することから始めなければなりません。
現代人は、家族の電話番号を暗記していません。
そのため、過半数の被疑者は、弁護人との接見時、
すぐに家族の電話番号を教えることができません。
(勾留慣れしている被疑者は暗記しています。)
被疑者は「スマホには入っている…」といいます。
留置管理に預け荷物として置かれていれば、
平日日中に宅下げをしてもらうことができます。
しかし、接見等禁止の事件では、共犯者がいることもあり、
スマホが証拠品として差押えられていることも多いです。
こうなると、家族の電話番号を調べることにハードルがあります。
・警察官を通じて被疑者の家族に連絡してもらう方法
・家族から裁判所令状係に電話があり書記官から電話をもらう方法
・住所を聞き出して、手紙を送る方法(ただし時間がかかる)
・警察署に近ければ、家族の家にいく方法(ただし交通費も出ない)
こんなところでしょうか。
私選弁護人は、契約や弁護士報酬授受の関係で、
外部の家族と人間関係があり、連絡先も知っています。
国選弁護人は、家族と連絡するために
上記の探偵のような調査業務を強いられます。
捜査権限がある検察官が住民票をとり、
はじめから家族を除いて接見等禁止を請求するべきです。
■国選弁護人が、運転免許証/マイナンバーカード/住民票コピーを入手する難しさ
裁判所は、弁護人に対して、軽い気持ちで
住民票や運転免許証、マイナンバーカードの写しを要求します。
弁護人は、検察官とは違って、捜査権限がありません。
住民票は、家族に取得してもらうしかありません。
職務上請求で住所地の市区町村に請求すると、返送まで時間がかかります。
住民票が必要であれば、検察官に捜査権限で取得させるべきです。
検察官が、家族を含めた接見等禁止をするのであれば、
請求時に被疑者と家族の住民票を取得して、疎明するべきです。
検察官が接見等禁止を請求した際、裁判官は住民票取得を指示すべきです。
警察官は、逮捕状請求から勾留請求まで時間があるのだから、
接見禁止請求までに家族を含む住民票を取得しておくべきです。
裁判官は、ひとまず、抽象的に
(ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。)と決定すれば足ります。
スマートフォンを使い慣れている家族であれば、
運転免許証やマイナンバーカードの写真をメールで送れます。
しかし、高齢者に写真を送ってもらうことは難しいです。
事務所や裁判所令状係のFAX番号を教えて送ってもらうにも、
現代では固定電話機・FAX機が無い家も多くありますから、
コンビニまで行ってもらい、FAXしてもらうしかありません。
もちろん、郵送も可能ですが、時間がかかってしまいます。
検察官と裁判官は、国選弁護人に対して、
不毛な作業を無償で強いていることを十分に理解して、
勾留請求・勾留審査をしていただきたいと願います。
抽象的に(ただし、被疑者の父母、配偶者、子を除く。)と書くだけで、
今日から、被疑者・被告人の人権を擁護することができます。
5.I裁判官「親族を頭から除外する書式」による運用の提案(2000年)
・
和田恵弁護士「一般接見に関する弁護活動」『
刑事弁護の現代的課題2』 (
第一法規 2013年)。56頁注釈21のI裁判官意見に筆者は賛同します。「39頁では、
接見等禁止決定をする場合にも親族をはじめから対象から除外するという運用が提案されている。(I裁判官の発言)」
20年以上前にすでに、筆者と同じアイデアを持つ
「I裁判官」がいらっしゃったことを嬉しく思いました。
「I裁判官」にできるのに、他の裁判官にできない理由はありません。
家族を除く接見等禁止は、裁判官のやる気次第だといえます。
(司会)若い方の意見はどうですか。
(I裁判官)私は、検察教官から、特に、勾留、接見だからといって、厳しくやれという指導は何も受けていません。任官してから、もともと民事部なんですが、令状請求処理ということで、令状もやってます。やっぱり、暴力団関係者で否認、共犯者がいると、この三つのうちどれかがあれば、接見禁止請求してくるのかなということが感じられました。
ものの本を読むと、60条の罪証隠滅よりは、81条のほうを重たく解しなさいということのようですから、検察官に電話かけて、よく分かりませんから、具体的にどういった必要性があるんですかと聞いてみますと、あんまりはっきり言わない検事さんもいるし、中には居直って、あなたは民事の裁判官で分からないと言われました。僕民事だから、分かりませんから、詳しく教えて下さいというふうに言うことにしてるんです。いろいろと言われて、理由がないならば、ここまで要らないんじゃないですかというと、検察官の中には撤回する人もいるし、がんばる検察官にはせめて嫁さんとかお兄さんとか御家族とかはいいじゃないですかというふうに水を向けて、なるべくなら全面的な接見禁止を認めない方向でというふうに、裁判所では考えてます。検察官は、却下の方向でといったら、皆さん嫌がりますけど、家族を外せませんかと言ったら、大抵の検察官は、いいですよと言うから、どこまで本気で接見禁止請求を考えてらっしゃるのかなと疑問に思います。
あと最近やって分からなかったのは、覚せい剤の事件で、自己使用なんですが、採尿して、薬物反応も出て、本人も自白してると、譲渡人も暴力団関係者のなにがしと名前も出て、この人から買いましたという調書もあるという状況で、なぜ接見禁止請求がくるのかなと思います。検事さんに電話かけてみて聞いてみたら、この人は破門されたけれども、元暴力団組員で、一応暴力団周辺者という扱いになっているらしいということなんで、組織的な犯罪の一環であるから、取りあえず請求した、ということを言われました。それは違うんじゃないかと、大分やり合ったんですけれども、検事さんがなかなか取り下げとか却下とかに応じてくれなくて、しかたなく、奥さんだけ外すということにした事案がありまして、どこまで検察官が深く考えているのかなと、最近分からないなというのが実感です。
(司会)却下して準抗告というのはないんですか。
(I裁判官)一件ありました。原裁判を取り消すという決定をいただきまして。薬物の自己使用で、覚せい剤そのものじゃないけれども、覚せい剤の入った薬を飲みましたということで、採尿もして薬物反応出てるという事案だから、罪体の立証できてるからいいじゃないかと思って接見禁止請求を却下したら、検察官が準抗告してきまして、準抗告裁判所で罪証隠滅のおそれがあるからと。こういう供述はにわかに信用できないということで、更に捜査を尽くす必要があって、供述内容や態度、さらに当初、任意採尿をちょっとごねたという事情があると、接見を許すと働きかけをすることによって罪証隠滅をする危険が大きいというような理由でした。
(C弁護士)飲んだというのが信用できないんでしょう、まず。注射したとか吸ったとか飲んだとか分からないけれども。まあ、認めたことにはならないだろうけれども、尿から出てれば、やっぱり罪証隠滅のおそれがあるのかと疑問に思います。
(H裁判官)その場合の罪証なんですかね、対象となる罪証というのは、何もないんじゃない。
(I裁判官)言わないやつをどうするんですかとか言ったんですけれども、検察官の方が、いや却下するんやったら、準抗告しますというので、じゃあ御判断仰ぎましょうということになりました。その後どうしてこういう取消決定いただいたのかなというふうに聞きにいったら、準抗告の裁判官は、やくざだからねと、一言で。あれ以来、それを慎重に考えて、安易に却下してはいけないなと思うようになりました。
(J裁判官)しかしやはり安易に接見禁止を求めてる例も多いですね。こっちも安易に却下しても準抗告もしない。(※筆者注釈:検察官が安易に接見禁止を求めて、裁判官が安易に却下しても、検察官が却下決定に対して準抗告をしないで、接見禁止がつかないままのことがある、という趣旨です。)
(司会)ほかの形で、接見禁止の関係でのお話はございませんか。
(K裁判官)安易な請求例というのは、多分、そうめずらしくないんだろうと思いますけれども、例えば、この間なんか、ベトナム人の万引きで、現行犯で捕まっているんですけれども、捕まる直前に、やはりベトナム人の女性とみられる別の女性と話をしてたと、その女は逃げちゃったのでどうも共犯がある。だから、接見禁止をしてくれと言うので、これはさすがに却下しても、もちろん何も言ってこなかったですけどもね。そういうことは結構多いですね。
(I裁判官)また後で、議論されると思いますが、いわゆる親族を頭から除外するという書式にしておいて、必要があれば、そこを考えるやり方はどうでしょうか。基本的には、検察官の請求というのは絶対に特定ないんでしょう、全面的な接見禁止請求だけでしょう。検察官は、安易にというのは、まさに、何も考えてない、接見禁止という、出すことに慣れちゃってるもんですから、そこをチェックできる方法がないのかなと思いますね。
(H裁判官)いや、なかなかいい方法だなと思います。
(I裁判官)身内がかかわってたら当然別ですけれども、身内がかかわっていないことが明らかなら、検察官に電話して、家族は事件に関係ないようです、あえて、家族を禁止の対象にしますかと聞くと、検察官は、大抵、じゃあいいですと言いますね。被疑者に、一番誰に会いたいかと聞くと、大抵は奥さんないしは内縁の奥さんと言いますので、奥さんいなけりゃ、両親とか、これらの人を接見禁止から除外するようにはやっていますが。
(E弁護士)やっぱり、検察官から接見禁止の請求がきたときには、勾留質問の段階で必ずいまのように聞いてほしいと思いますね。今言われたように、弁護士以外、誰れと会いたい、誰れとこの事件について今後のことを相談したいと聞いてもらって、その人は少なくとも外してもらう。なぜかというと、これは当番弁護士の経験なんですけれども、僕なんかも当番弁護士で行きますと、接見禁止については、一番相談したい人を聞いて、その人と連絡を取って、場合によれば伝言を伝えるし、場合によればその人について一部解除を取って、初めて、どういうふうにこの事件を頼むのか頼まないのか、あるいはお金は誰が出すのかという話になるわけですね。今の感じだと、いったん全面的接見禁止がついちゃうもんだから、当番弁護士が行ってその話を聞いてと、二度手間なんですね。勾留質問段階で、例えば、女房と話したいと言われれば、それを除いてくれれば、取りあえずそこで話があって、弁護士に頼むとかいう話がある、基本的に進行が一歩早まるわけですね。
(M裁判官)質問なんですけど、さっき、電話で聞かれるとおっしゃいましたけれども、どうして検察官にそれを聞くんですか。そして検察官が、親族も駄目だといったらどうするんですか。
(I裁判官)その関係を裏付けるもの何かありますかと。暴力団関係者、通謀する可能性があるということを検事さんが言われれば、その疎明はなんかできてますかというふうに、一応確認しますが。
(M裁判官)検察官に、そういう釈明を求めるというのは、慣行なのでしょうか。
(I裁判官)これは、私の慣行で。電話せずにやってもいいんですけれども、後でなんか言われると、一言いってくれればと、任官して初めのころ、電話せずにいいや、と思って勝手に外してやったら、後から検事から、どうしてこっちの話を聞いてくれないんだとクレームがきたもんですから、あらかじめ要らぬもめごとはしたくないなということで、一応聞くだけ聞こうと、反省した結果なんです。
(司会)若い人のやり方と中堅の方のやり方に違いがあるようですが、その辺の話をどうぞ。
(M裁判官)親族が何か関係してるんであれば、その原資料にそのことが出ているんじゃんじゃないかと思いますね。原資料にあれば、接見禁止を外すことに慎重になってもいいですが、原資料に何もないのに、こちらから聞いて、また、新たな疎明をさせてもやっぱり接見禁止をするという判断になるのはどうなんでしょうか。
(N裁判官)電話をかけて検察官の意見を聞くというのは、東京地検の刑事部なんかも、検察官の請求と違った形の処理になりそうだというときには、必ず電話をかけるという慣行があるみたいなんですね。それで、結局、そこで、こういう言い方は反感覚えるかもしれませんが、交渉なんですよ。これいいじゃないですかと、この程度のことでそんな目くじら立てなくてもいいじゃないですかと、向こうがうんと言えばじゃあそのとおりやりますからねという話になる。違いますと言ったときにどうするか、それが結構、裁判官の中では悩みなんですね。そのときに、すぱっと切れないという。意見を聞けという条文はどこにもないんですね。逆に言うと、弁選が出ててはっきりしてると、だけど勾留するときに弁護人に意見聞くかというと聞いてないですね。そこのあたりが、現実に行われてる判断の仕方が、そもそも、裁判所の中立性という点が、やや疑問があるようなシステムになってるんじゃないかと思います。(※筆者注釈:I裁判官は~)すごくまじめに取り組んでおられて、検察官にまず聞いて、無用な汗を出したくないという発想で、まじめに取り組んでおられるなと、すごく感心するんですけれども、ほんとうにそれでいいんですかという疑問は、やっぱり僕は持ってます。却下するときには、僕も電話してます。それはもう、こっちが却下するつもりで電話してるんで、よほど、資料出し忘れてましたいう以外は、もう駄目という感じではやってたんですけれどもね。だから、無用なトラブルを起こしたくないし、それにはっきり言って原決定を取り消すという準抗告とか抗告の判断を受けるとショック大きいですよね。僕も初任のとき、結構自信持ってやったのが、いきなり準抗告で取消され、非常にショックを受けたことを、今、お話伺って思い出したんですけれども、やっぱりショックでしたからね。本当に、みんなそういうふうにやってていいのかなと思うし、接見禁止なんかは、やっぱり、具体的に考えてないですよね。要するに準抗告させて、余計な手間をかけさせたということに、どのぐらい心理的な負担を覚えるか、というう面もあると思います。
(司会)こちらが一応判断決めて、さっき言われたように、準抗告させないための説得のために検察官に電話かけるということは、僕なんかもやった経験ありますけれども。
(D裁判官)ほとんどの裁判官は、休日なり夜間の令状当番をやっているけれども、やっぱりその事件はその日に処理してもう後に残したくないです。そのままで即決して、後いろいろもめないためにはどうしたらいいかと考えざるを得ない。それなりのやり方だと思うし、僕も休日なんかやるときは、検察官に却下しますよと事前に言いますね。準抗告をさせない空気を作った上で、却下するやり方をすると思うんです。むしろ弁護士さんの方に理解していただきたいのは、裁判所は昔より余計、令状部体制なんかをきちっとそろっているところはないと思います。大阪と東京は今でも令状部はあるんでしょうね。名古屋は今ないらしいんですね。そうなるとさっきの話でいくと、被疑者段階でもって、当初否認していたため、接見禁止の要件があるとなってその決定が出たとします。しかし、その後、勾留延長になったら、途端にがくっときて、自白したというときにも、起訴までという当初の接見禁止が続いています。それを裁判官どこかでチェックするのかというと、だれも見てる人いないです。また、第一回公判までという接見禁止の場合も、とうとう起訴されたんだなとあきらめて、第一回公判期日までに検察官の取調べを求めて自白する場合があります。第一回前の検察官の取調べがいいかどうかという問題があるけれども、少なくとも、事情は変わっている。こういうときは、やぱりついてる弁護士さんが、ときどき、事情変更をしていますよと、裁判所に接見禁止の変更を促す意見を出してほしいですね。そう意見がでない以上、おそらく起訴後に接見禁止をした当番の裁判官はもちろん、公判部の裁判官も、第一回始まる前にはそんなことに関心持って見ていないと思う。残念ながらね。その辺は、検察官と弁護人が接見禁止の状況を常に考えて、問題提起をしていただかなくてはいかんかもしれない、そんな気はします。
・・・(続く)
発刊された2000年(平成12年)の新任が司法修習53期です。
「検察教官」や「任官して初めのころ」のご発言と
「(司会)若い人」から、任官3年~5年目と推察します。
I裁判官は、40期代後半か50期代前半の民事裁判官でしょう。
とても優秀で法律に忠実に接見等禁止の審査をされていたと伺われます。
一方、赤文字は、検察官と裁判官の怠慢と感じられる部分です。
検察官は、雑に(安易に)接見等禁止をしてくるし、
裁判官は、接見等禁止をした後の供述状況をチェックしません。
D裁判官は、「むしろ弁護士さんの方に理解していただきたい」と発言しますが、
私選弁護人を雇えない限り
被疑者段階における「雑な(安易な)接見等禁止」について
「諦めろ」と言っていることと等しいです。
裁判官にも開き直っている方がいるように感じられます。
少年の被疑者等に対して接見等禁止の裁判をする場合には、親権者である父母との接見は禁止から除外するのが通例である。
少年の要保護性に配慮したものであるが、少年に限らず、被疑者等にとっては、親や配偶者などの近親者との接見等を禁じられることによる精神的ダメージが大きいから、近親者を介しての罪証隠滅の可能性が低い場合には、それらの者を接見等禁止の対象から除外することを積極的に検討すべきである。
丸田顕裁判官は、少年事件に限らず成人事件でも、
近親者を接見等禁止対象から除外することを
積極的に検討するべきと指摘しています。
「積極的な検討」とは、裁判官が頭を悩ませるだけではなく、
被疑者に対して、面会したい家族がいるかを確認して、
検察官に対して、面会したい家族は除外して良いか電話することです。
現在、検察官に電話をして一部解除する裁判官は何割いるのでしょう。
6.家族を含めた接見等禁止を扱うウェブサイト(記事)
・金岡法律事務所・金岡繁裕弁護士著の弁護士コラム
※当職も「段階的身柄開放」論が現実的だと感じます。
【参考情報】
日弁連の会員サイト(要ログイン)には、
「接見等禁止」の準抗告等の書式があります。
ただし、本稿の書式よりも記載分量が多く、
瞬発的に使いにくい(結果使われにくい)書式です。
「一部」解除ではなく「全部」解除にこだわるため、
書式の分量が多くなってしまう傾向にあると分析しています。
・ハンドブック―身体拘束からの解放―第2版 日弁連刑事弁護センター編
書式 14 接見等禁止決定に対する準抗告申立書(被疑者) 82P
書式 15 接見等禁止一部解除申立書(妻) 84P
書式 16 接見等禁止一部解除申立書(期日指定) 86P
書式 17 接見等禁止決定に対する準抗告申立書(起訴後第1回公判まで) 88P
書式 18 接見等禁止決定に対する抗告申立書(第1回公判後) 90P
・準抗告申立書等参考書式(上記と内容は同じ)
〆
横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇
著作権法32条1項に基づく引用
・本稿の引用論文は、
著作権法32条1項の「批評、研究」の目的で引用しています。
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