乙号証に同意した弁護人が「弁護士職務基本規程」46条 48条 22条に抵触する危険性の検討©2024川口崇弁護士
(本稿は執筆途中です。加筆・修正することがあります。)
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「解説 弁護士職務基本規程」は教えてくれない「同意」と懲戒の話。 |
本稿では、乙号証同意と弁護士職務基本規程との関係性について検討します。
1.「すべて同意する」と懲戒されるのか?
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乙号証の証拠意見と職務基本規程の関係 「すべて同意」が懲戒対象になるか? |
1-1.認め事件で「すべて同意」は直ちに懲戒はされない
認め事件(自白事件)では、弁護人が被告人の承諾を得ずに請求証拠に対して
「すべて同意」意見をしたことを理由とする懲戒処分例は、見当たりませんでした。
仮に、認め事件(自白事件)で懲戒請求や民事訴訟の提起がされた場合に、
弁護人は、「被告人の(黙示の)承諾を得ていた」や
「すべて同意が有益・有利だと考えて弁護活動を行った」と弁解するでしょう。
認め事件(自白事件)では、「すべて同意(乙号証を含む同意)」の証拠意見が
直ちに、弁護過誤や懲戒事由に該当するとまでは言えないと考えます。
(参考1)大阪地方裁判所のウェブページの「傍聴バーチャルツアー」
「弁護人が,甲号証,乙号証について同意すると言っていますが,これはどういうことですか?」「弁護人が検察官請求の証拠に対して,すべて同意するという意見を述べたので,裁判官は,その証拠をすべて採用し,取調べをしました。」
罪状認否で公訴事実を認める自白事件(認め事件)の場合に、
「すべて同意」する被告人質問後行の弁護活動が、国民向けに掲載・紹介されています。
「傍聴バーチャルツアー」は、2007年には公開済みです。Internet Archive
ぜひ、アップデートしてほしいと思います。
(刑事事件に特に力を入れる大阪弁護士会は、裁判所に修正を求めないのでしょうか。)
(参考2)「伝聞法則の研究」2010年の論文(近畿大学 辻本典央教授)
「例えば,被告人が捜査段階から一貫して(任意に)自白し,
公判においても,公訴事実をすべて認めているといった場合には,
被告人の犯罪を立証する伝聞証拠について
弁護人が同意を表明したとしても,
少なくとも被告人が明示でそれに異を唱えない限り,
弁護人の同意表明は,被告人の了承が得られた,
代理権に基づく有効のものと評価することに問題はないであろう。」
刑事訴訟法(学者)の認め事件の相場感の例として引用しました。
(通常事件のAQ先行が開始した平成25年/2013年より前、2010年の論文です。)
論文の引用部分である認め事件(自白事件)パターンは、
裁判例で同意権が争点となる否認事件パターンの前置きの位置付けです。
一方、辻本典央教授は否認事件パターンでは、以下のようにご指摘です。
「被告人は、弁護人との関係や、法廷の雰囲気から、必ずしも自分の意思を完全に表明できるとは限らず、訴訟を主宰する裁判所の側から,そのような状況における被告人の意思を確認することが要請される。」
被告人が法廷で「異議」や「不同意」を口頭で伝える難しさは、
認め事件(自白事件)でも否認事件でも同じであると考えます。
筆者は「被告人が明示でそれに異を唱え」ることは、現実的ではないと考えます。
※そこで筆者は「乙号証の供述調書の証拠意見書(被告人)」を無償公開しています。
刑事訴訟法の学会(教授全体)の研究が、
否認事件に限らず、認め事件(自白事件)パターンでも、
「不同意」意見(→被告人質問先行)が被告人に「有益・有利」である、
という刑事裁判のパラダイムシフトに追いついていません。
学会には、被告人質問先行型の刑事裁判における
被告人の「同意権」から研究の再構築・見直しが求められます。
1-2.否認事件で「すべて同意」は懲戒対象になる
否認事件では、公訴事実を認める供述調書(自白調書)に同意することは、自殺行為です。
否認事件で「すべて同意」意見は、被告人から懲戒請求されることを覚悟しなければなりません。
否認事件では、被告人が公訴事実を否認しているのに、
弁護人が検察官請求証拠に「すべて同意」した事件に関して、2件の懲戒処分例がありました。
参照:書庫「国選弁護人の懲戒処分例」(弁護士自治を考える会)(2008年の事例)(2009年の事例)
※筆者には個々の被懲戒者(弁護士)を非難や誹謗中傷する意図はございません。
否認事件で「検察官請求の書証を同意することについて、
被告人の承諾を得るために各書証について全文を読ませる必要はなく、
16分間の接見時間内に同意を承諾するか否かの判断に関して
十分な情報を与えたうえで承諾を得たものと判断された例」
(日弁連懲戒委平成19・3・12議決例集10集18頁)。
(解説 弁護士職務基本規程135頁より。)
※本事例は、非売品の「平成21年関東十県会夏期研修
ケーススタディ弁護過誤~133の事例から~」334-335頁に詳細。
原弁護士会は「戒告」。日弁連は懲戒しない判断。
1-3.弁護士会は「乙号証不同意」を啓蒙をするべき
弁護士会(日弁連・単位会)は、自白事件(認め事件)でも、
乙号証は「不同意。必要性なし」が令和時代のスタンダードであることを
すべての刑事弁護に関わる弁護人に対して研修する必要があります。
(研鑽)
第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、研鑽に努める。
■規程7条は、弁護士が研鑽に努めることを定めます。
弁護士会は、研修の機会を提供して、情報提供をしていくべきです。
たしかに、個々の事件で「弁護士が主観的に最善と判断」して、
軽率に「すべて同意」と証拠意見することを、弁護士会は止められません。
弁護士会が個々の刑事事件に介入することはできません。
しかし、いまだに一定数の弁護人が昔の刑事弁護の常識を引きずったまま、
同意意見を「主観的に最善と判断」して軽率に「すべて同意」している現状は、
弁護士会が啓蒙して変更する必要があります。
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日弁連では、2024年3月26日、神山 啓史弁護士を講師に招き「公訴事実に争いのない事件の弁護活動レベルアップ研修~傍聴して見えたこと~」という研修を実施しました。(日本弁護士連合会総合研修サイト |
※2025年現在、日弁連eラーニングにアップされています(会員ページ)。おすすめです。
司法研修所の教育は、裁判員裁判時代になったので被告人質問を先行させるというものです。身上経歴調書や犯行状況を認めた調書も不同意にして「任意性は争いませんが、審理に必要な事実は被告人質問で明らかにしますので、採否を留保してください。被告人質問が終わった後、なお、この調書の請求を維持するかどうかについて検察官に確認していただきたい。請求が維持されてもそのときには必要性のないことは明らかになるはずです。」ということを言って、乙号証を使わない審理をしようと言われたはずです。しかし、残念ながら、東京であっても乙号証を不同意にして被告人質問を先行でやる法廷は9割方ないです。
第二東京弁護士会の二弁フロンティア2024年11月号
「神山啓史の 国選弁護「チェックリスト」(前編)」
筆者は、弁護士向けの証拠意見書の書式を作成して公開しています。
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🆕76期等、新人弁護士さん用に証拠意見書を作成して公開しました🆕 |
1-4.最高裁判所(司法研修所)は実務家向けに刑事関連修習の現在の白表紙を公開するべき
また司法研修所は「刑事弁護の手引き」を最高裁ウェブサイトで公開するべきです。
(1)民事裁判と(4)民事弁護では、白表紙を「教官室コーナー」で公開しています。
(2)刑事裁判と(3)検察と(5)刑事弁護は「項目」だけで情報公開がされていません。
🆕(2)刑事裁判教官室が「プラクティス刑事裁判」と「プロシーディングス刑事裁判」を公開しました(2024年3月14日に公開。偶然に本稿公開翌日。)刑事裁判教官の皆様、情報公開ありがとうございます。
⇨(5)刑事弁護教官と(3)検察教官の方々、情報公開に向けてがんばってください!
「刑事弁護の手引き」の公開を心待ちにしています。
2.弁護士職務基本規程に抵触する危険性の検討
職務基本規程との関係性について、整理しました。
2-1.規程46条「最善の弁護活動」
(刑事弁護の心構え)
第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
■規程46条は、「最善の弁護活動に努める。」と定めます。
「本条は、何が最善の弁護活動であるのかを具体的に規定してはいないが、
その弁護士が主観的に最善と判断するものを指すのではなく、
刑事弁護活動を行う平均的水準の弁護士が
一般的かつ合理的に最善と考えられる弁護活動を
行うように努めることを示すものである。」(解説 弁護士職務基本規程135頁)
・証拠意見について「最善の弁護活動」とはなにか?
捜査官の作文ではなく、法廷で直接供述させることが「最善の弁護活動」です。
このことは、白表紙「刑事弁護の手引き」でも詳しく説明されています。
刑事弁護の手引き(令和4年4月)
「刑事弁護の手引き(令和4年4月)」28頁
(司法研修所刑事弁護教官室。75期から白表紙として配布)
(4)証拠意見の留意点
「公訴事実に争いのない事件だから検察官請求証拠に全て同意する」という考えは、改める必要があります。(※被害者の供述調書についての記載を中略)
被告人の供述調書は、
裁判員裁判か裁判員裁判かを問わず、
※筆者注:片方が「裁判官裁判」or「非裁判員裁判」の誤字
「不同意。任意性は争わない。被告人質問を先行されたい」として、被告人質問を先行させるべきです。
ただし、「不利益な事実の承認」にあたらない供述は、任意性を問題とするまでもなく刑訴法322条1項前段の伝聞例外要件を充足しませんから、不同意意見を述べれば、同項後段に該当する事情がある場合を除いて証拠採用されないことになります。
そして、被告人質問後に、供述調書は取調べの必要性がなくなったとして検察官の証拠調べ請求の撤回(あるいは裁判所の証拠調べ請求の却下)を求めるべきです。
もし検察官が供述調書の取調べを伝開例外(刑訴法322Ⅰ)に基づき請求した場合は、被告人質問により十分に供述が顕出されたとして「異議あり、必要性なし」と述べるべきです。
被告人は法廷にいます。
「被告人はどのような人か、どのような生活をしてきたのか、何をしたのか、なぜしたのか、逮捕から公判までの間に何をしたのか、これからどうしていくのか」は、被告人自らが供述することです。
捜査官の作文性の強い供述調書ではなく、直接主義、公判中心主義の観点から、被告人自らが事実認定者の面前で供述すべきであり、弁護人はその供述を引き出すべきです。
「刑事弁護の手引き(令和4年4月)」22頁
被告人の供述調書については、公訴事実の争いの有無にかかわらず、同意すべきではありません。
被告人は法廷にいます。被告人の供述は捜査官の作文性の強い供述調書ではなく、直接主義、公判中心主義の観点から、被告人自らが事実認定者の面前で供述することであり、弁護人はその供述を十分に引き出すべきです。
したがって、被告人の供述調書について弁護人の述べるべき証拠意見は
「不同意。任意性は争わない。採否を留保し、被告人質問を先行されたい。」です。
ただし、「不利益な事実の承認」にあたらない供述は、任意性を問題とするまでもなく刑訴法322条1項前段の伝聞例外要件を充足しませんから、不同意意見を述べれば、同項後段に該当する事情がある場合を除いて証拠採用されないことになります。
被告人の供述調書の取調べに先立って被告人質問が施行され、供述調書の記載事項のうち審理及び判決に必要な事項について十分な供述が引き出されれば、供述調書は取調べの必要性がなくなります。
したがって、検察官による証拠調べ請求の撤回あるいは裁判所による証拠調べ請求の却下を求めるべきです。
被告人質問終了後、検察官が被告人の供述調書の取調べを伝聞例外(刑訴法322Ⅰ)基づき請求した場合は、被告人質問により十分に供述が順出されたとして「異議あり、必要性なし」と述べるべきです。
※「基づき」の前「に」は脱字です。
司法研修所の刑事弁護教官室が、白表紙で
公式に推奨している乙号証の「不同意」意見は、
刑事弁護活動を行う平均的水準の弁護士が
一般的かつ合理的に最善と考えられる弁護活動です。
・「同意」した方が良い例外は存在するのか?
同意する方が「有益・有利」(最善)の場合があるのかについて、
筆者の見解では、即日判決のためにやむを得ず
一部同意する場合が考えられるものの、極めてレアケースです。
(別記事 4.乙号証を同意するべき例外の検討でまとめています。)
村井宏彰弁護士は、季刊刑事弁護95号(2018年7月)掲載の論文で、
「結論として、被告人供述調書によるほうが適切な事案、すなわち、
被告人供述調書の取調べに対して同意し先に取り調べることが
被告人に有益・有利となる事案は、ほぼない。」と断言しています。
季刊刑事弁護95号(現代人文社@2018年7月・34頁より引用)
非裁判員裁判における審理の在り方―被告人質問をもっと「先行」しよう!
令和時代の「最善の弁護活動」は「不同意。必要性なし」と意見することです。
2-2.規程48条「防御権について適切な説明及び助言」
(防御権の説明等)
第四十八条
弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように努める。
■規程48条は、「防御権について適切な説明及び助言を行い」と定めます。
刑事訴訟法326条1項は「被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述」と定めます。
「被告人」本人が同意権を有しています。弁護人は、単なる包括代理人です。
弁護人は、乙号証に同意する場合には、同意権を有する被告人本人に対して、
同意によるデメリットを十分に説明したうえで承諾を得ていなければ、
弁護人が被告人に対して「適切な説明及び助言を行」ったとはいえないと考えます。
最高裁判例によれば、弁護人の(乙号証等の)「同意」の意見に対して、
被告人が、法廷で直ちに異議を出さなければ「同意した」と認定されます。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55535
筆者は、古い判例が法律素人の被告人に対して無茶振りをしている、と感じます。
刑事訴訟法判例百選 第9版 NO89「証拠とすることの同意」の「解説」で
渕野貴生教授は、以下のように指摘しています。
「被告人が反対の意思や異議を述べなかったことをもって、
あるいは、被告人が否認しているのではなく黙秘していたにすぎないとして
(大阪高判平成13・4・6判時1747号171頁)、
弁護人の同意のみで直ちに被告人の同意があったと即断することには疑問が生じうる。
多くの被告人にとって法廷は非日常的空間である。
そのような緊張する場で専門的知識を前提に進められる公判手続において、
被告人が当該伝聞書面による証拠調べの得失について とっさに適切な判断をして、
検察官、弁護人、裁判所の進行に割って入るのは、容易ならざることである。
反対の意思表示をしなかったことをもって同意したとみなすと、
被告人の真意に沿わない可能性が残る。
このような場合にはむしろ裁判所の側で、被告人の意思を積極的に確認すべきであろう。」
解説の太字部分について、筆者は渕野貴生教授と同じ意見です。
■大阪高判平成8・11・27判時1603号151頁の百選解説者(参考)
百選8版:91証拠とすることの同意●辻裕教元検事(当時、法務省刑事局参事官)
百選9版:89証拠とすることの同意●渕野貴生教授(立命館大学)
百選10版:86証拠とすることの同意●福島至教授(現在、弁護士)
百選11版:A41 ※Appendixに落ちて解説が薄くなってしまいました。
※百選の事例は、被告人が否認なのに弁護人が「すべて同意」した完全な失敗例です。
(後に、被告人から懲戒請求されたのかどうかはわかりません。)
「弁護人は、いわゆる包括的代理権に基づいて、刑訴法326条1項の同意を行うことができ、実務では通常、検察官請求の書証について、弁護人のみが同意・不同意の意見を述べる。ただし、被告人の意思に反する包括的代理権の行使は許されず、被告人の意思に反する弁護人の同意は無効とするのが通説である。本件では、第一審における弁護人の同意が被告人の意思に反するものでなかったかが、控訴審において問題とされた。」【百選11版冒頭:有斐閣オンラインより引用】
そして、いったん証拠とすることに「同意」した証拠意見は、
検察官の証拠調べ後に、「同意」を撤回することは法律上許されない、とされます。
※「同意→不同意」は証拠調べ後は不可。「不同意→同意」は可能。
弁護人は、乙号証にあえて「同意」する弁護方針をとる場合には、
事前に、乙号証に同意することを被告人に承諾を得るべきです。
そして「承諾」は、単に乙号証を差し入れたり読み聞かせることに加えて
弁護人が乙号証を同意することの「デメリット」を説明しなければ、
「防御権について適切な説明及び助言を行」ったことにはなりません。
2-3.規程22条インフォームドコンセント(刑事弁護への類推適用)
■規程22条は、「依頼者の意思の尊重」を定めます。
(依頼者の意思の尊重)
第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める。
第22条は、インフォームドコンセントの法理を定めます。
「依頼者が最善の自己決定をするためには、
弁護士からの説明や情報提供が適切に行われている必要があり、
依頼者は、この情報提供に基づき、
弁護士の提案した処理方針に同意するかどうか判断する
(インフォームド・コンセントの法理)。」(解説 弁護士職務基本規程51頁)
「依頼者の意思の尊重」は「被告人の意思の尊重」とも解釈できます。
弁護人は、乙号証不同意(被告人質問先行)であれば、
被告人に不利益になる場合はほぼありませんから、
乙号証不同意の処理方針の選択について、
理論的な説明・情報提供をしなくとも、問題ありません。
刑事訴訟法は直接主義・公判中心主義を定めます。
不同意がデフォルトですから、不同意の説明を要しません。
弁護人は被告人にこのように説明すれば、信頼してもらえます。
弁護人「あなたの被疑者段階の供述調書には、
裁判ですべて不同意の意見を出します。
事件について、裁判官に直接言いたいことを話してください。」
一方、弁護人は、乙号証同意(被告人質問後行)であれば、
「裁判官が、供述調書により動機・経緯の心証をとるデメリットがある」
という説明・情報提供を被告人にしたうえで、
乙号証同意の処理方針に被告人の同意を得るべきでしょう。
しかし、同意のデメリットの説明・情報提供は、
以下のように矛盾をはらむ内容になってしまいます。
弁護人から被告人への「同意」によるデメリット説明の具体例。
弁護人「供述調書の内容が概ね間違ってはいないとしても、
捜査官の書いた作文ではなく、あなたが裁判官に直接話すことが
刑事訴訟法の予定している裁判の方法だから、不同意も選べます。
不同意にすれば、ほとんどの場合に供述調書は裁判で使われません。
乙号証を同意すると、裁判官は、あなたの犯罪の動機や経緯について、
裁判所での供述ではなく、捜査官の作文をソースに事実認定をしてしまいます。
私は、あえて供述調書に同意しようと思うのですが、いかがですか?🤔」
被告人「…先生、言っていること矛盾していません?」
・・・弁護人が、不同意がベターという「説明」をしたうえで、
「説明」と矛盾した同意の「助言」(法326条の同意の確認)をして、
被告人の信頼を失ってしまうリスクを犯す必要はありません。
令和時代の証拠意見「不同意。必要性なし」にした方が
よほど弁護活動がやりやすいだろうに...と感じます。いかがでしょう。
【裁判員裁判の乙号証「同意」意見の検討】
裁判員裁判の余談です。
上記判例は、通常事件を想定しています。
裁判員裁判では、原則被告人質問先行ですので、
弁護人の「同意」はメリットがありません。
(プラクティス刑事裁判の[仮想]弁護人が同意ミスをしています。)
実務家(弁護人)の感覚として、
証拠意見は公判前整理手続きの早い段階であり、
被告人質問の打合せは公判に近い遅い段階です。
(筆者の場合、被告人質問のしっかりとした打合せは、
最終公判前整理手続き後~公判直前のタイミングです。
早く打合せをすると被告人が忘れてしまいますから。)
被告人と甲号証を照らし合わせて確認すると、
供述調書から言い分が変わることは多々あります。
供述調書(作文)は、捜査官から防犯カメラ等の
客観証拠をまともに見せてもらわないままに、
言い分を聞かれた内容ですから、変遷して当然です。
裁判員裁判において、
弁護人は、乙号証「同意」はありえません。
弁護人は、乙号証「不同意」意見が安全策です。
ただ、裁判員裁判で原則被告人質問先行の運用を
知らない初心者弁護人(@裁判員裁判)が
乙号証を「同意」してしまうケースがあるかもしれません。
裁判員裁判では、被告人が裁判所に対して、
直接、乙号証「不同意」を述べたり、
「同意」に異議を述べるチャンスが、ほぼありません。
裁判員裁判では、公判前整理手続き期日等で、
予定主張記載書面(1)とほぼ同じタイミングで
弁護人が「証拠意見書」を提出しています(法316条の16)。
問題は、実務において、被告人不在の
「打合せ期日(被告人が出頭できない)」や
「公判前整理手続き期日(被告人出頭が任意)」で
弁護人の証拠意見書が提出されていることです。
実は、意欲のある裁判官は、
「なるべく被告人に出頭させた方が良い」
「直接、裁判手続きを見せた方が良い」と考えて、
・初回は打合せ期日(顔合わせ)
・2回目以降は公判前整理手続き期日(被告人出頭)
という取り扱いをしています。
筆者は、この訴訟指揮がフェアだと評価しています。
被告人が裁判所に出頭すれば、裁判所の面会室で
期日の前後に接見でき、やり取りを説明できます。
しかし、裁判所の準備コストを考える裁判官は、
・初回~最終回直前(1回前)まで打合せ期日
・最終回は公判前整理手続き期日(被告人出頭・最終回は出頭義務)
という取り扱いをしています。これも適法です。
打合せ期日では、法廷を使わなくても良いので、
評議室(会議室)だけで審理を進められて、
裁判所の準備コストが低く抑えられます。
ただし、打合せ期日メインだと、被告人は、
弁護人の証拠意見(書)とやり取りを聞く機会がないまま
いつの間にか本番の公判が始まってしまいます。
弁護人が、出頭していない被告人に、
裁判手続きを口頭だけで説明することは、ほぼ不可能です。
見てもいない手続きを口頭で説明されても困るでしょう。
被告人が弁護人の「同意」意見から自衛するためには、
(最終等)公判前整理手続きに出頭した際に、
「乙号証は不同意!」と直接述べるしかありません。
※筆者は「乙号証の供述調書の証拠意見書(被告人)」を無償公開しています。
被告人が予め証拠意見書を郵送で提出することも自衛手段になります。
※裁判員裁判の認め事件では、
検察官は、被告人質問後に乙号証をほぼ撤回します。
結果論ですが、同意しても検察官の撤回で
事なきを得ることはあるかもしれません。
しかし、「同意」することのリスクは、
被告人質問(先行)した供述内容として、
検察官の想定する「悪い犯情」を供述しない場合に、
検察官が、撤回せずに請求維持したときに顕在化します。
弁護人は「同意」済みであり「不同意」に変更できません。
裁判所が「必要性なし」で却下すればセーフですが、
検察官は当事者主義から弁護人が「同意」した以上、
乙号証を採用するべきだ!と主張する可能性があります。
同意してしまった弁護人は、見ているしかありません…
弁護人が公判前で「不同意」にしておけば、
検察官が法322条請求をした場合にも、
裁判所が「必要性なし」で却下しやすくなります。
仮に、裁判所が法322条採用した場合にも、
裁判所判断であり、弁護人には責任は一切ありません。
自動車の運転で言えば、こうです。
「不同意」⇨かもしれない運転
「同意」⇨(大丈夫)だろう運転
横浜家庭法律事務所 弁護士川口崇
〆